ゴールデンウィークとなれば普段はそれほど強く関心がなくても、珍しい鉄道に乗りに行こうと旅行する人が少なくない。でも、電車なんてどれもこれも似たようなデザインだと思っている人は、最新の車両デザインをみてほしい。驚くほど大胆なものが登場しつつある。とくに、鮮やかなカラーリングが近年は目立つ。鉄道関連の執筆も手がけるライターの小川裕夫さんが、最新鉄道車両のトレンド「色」についてリポートする。
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なにげなく乗っている鉄道車両が最新型に変わったところで、その変化に関心を払う人は多くない。東海道本線を走る車両がE231系だろうと、E233系だろうと、時間通り目的地に到着すれば問題ないのだから。だが、鉄道に関心がない人でも、車両の色が変わると、すぐに「これ、新しい電車かな?」と気がついたりする。色の変化に、人は意外と敏感だ。
最近の鉄道業界では、鉄道車両の色に変化が起きつつある。
ロックバンド・くるりが「赤い電車」と歌った京浜急行電鉄は、長年にわたって赤色を伝統にしてきた。その伝統を打ち破るかのように、2005(平成17)年から青い車体「京急ブルースカイトレイン」の運行を開始。2014(平成26)年には黄色い車体の「京急イエローハッピートレイン」の運行も始めた。これらにより、京急=赤といったイメージは薄らいでいる。
車体の色を変えるトレンドは、地方にも波及している。鳥取県の若桜鉄道は、国鉄の若桜線を第3セクターに転換した19.2キロメートルの路線。知名度は決して高くないが、SLを運行して観光客を惹きつけている
その若桜鉄道が、5月1日~8日の期間限定で漆黒のSL車体をピンク色に塗り替えると発表した。「SLといえば黒」というのが、従来からの伝統。それには理由があり、SLは煤煙で車体がすぐに汚れてしまうため、少しでも汚れが目立たないようにするために黒にしている。その常識を破り、世界広しといえどもピンク色のSLを走らせるのは若桜鉄道ぐらいだろう。
インパクトでは、JR東日本も負けてはいない。JR東日本は“走る美術館”と銘打った「現美新幹線」を4月29日から登場させる。上越新幹線の越後湯沢駅-新潟駅間を運行する現美新幹線のエクステリアのデザインは、アーティストの蜷川実花さんが担当。インテリアは、気鋭のアーティスト8人による競演だ。
鉄道車両は外観に工夫を凝らして、空気抵抗を減らしてスピードを上げたり、静音性・制振性を高めてきた。しかし、凝ったデザインにするメリットは、どこにあるのだろうか?鉄道の車両や駅舎などのデザイン専門誌『鉄道デザインEX』(イカロス出版)の佐藤信博編集長は、外観のインパクトを重要視するようになった傾向について、こう解説する。
「鉄道は通勤・通学需要ともに頭打ちなので、各社は路線を維持するべく、集客に知恵を絞っています。そこで考え出されたのが、一風変わった車両を走らせることです。鉄道車両は全般検査と呼ばれる定期検査をSLは4年、電車は8年ごとにおこなう決まりです。その際、以前とは異なるカラーリングに塗り直す。これまでだったら、色を変えても地元紙や鉄道専門誌が取り上げるぐらいでしたが、近年はSNSで全国に発信できるようになりました。
車両を新造すると数億円、改造でも1000万単位の費用が必要になりますが、全般検査のついでに色を塗り直すなら費用は安く済みます。それでいて、全国から関心を集められるのです。色の塗り替えは、費用対効果のよい集客方法と言えます」
確かにピンク色のSLが走れば、全国から観光客が集まるだろう。また、報道陣も殺到するに違いない。地元民と鉄道マニアしか知らなかった若桜鉄道が、全国的に注目されることは間違いない。