慰安婦問題は日本を悩ませる大きな外患で、中国や韓国で沸き起こる反日感情の素地でもある。一方、過去に日本の植民地支配を受けた台湾も、中韓と同じ文脈で語られることが少なくない。だが、ノンフィクションライター・安田峰俊氏の現地取材からは、「反日」だけでは説明できない側面も見えてくる。
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慰安婦問題について、台湾の状況は独特だ。
今年3月8日、歴史的な街並みが広がる台北市内の迪化街で、「阿媽家(おばあちゃんの家)」という記念館の除幕式が実施された。通称は「慰安婦記念館」。式典には馬英九総統のほか、存命する台湾人元慰安婦も出席し、日本政府への謝罪と賠償を訴えた。
設立母体である婦女救援基金会(婦援会)の調査では、「被害」の証言が確認された台湾人元慰安婦は59人(うち現時点での生存者は3人)。昨年12月に日韓間で慰安婦問題の決着が図られたこともあり、台湾についても解決を訴えている。
だが、婦援会の康淑華執行長は活動方針をこう話す。
「慰安婦問題は『反日』を主張するための政治問題か、それとも人権やジェンダーの問題か。様々な解釈がありますが、私たちの認識は後者です。台湾人として、自国の女性が過去に苦しい目に遭った事実への名誉の回復を求めています。賠償よりも日本政府から彼女たちへの謝罪が欲しい」
実のところ、婦援会は慰安婦問題の追及だけをおこなう組織ではない。DVやリベンジポルノ被害者の救援、性的人身売買の解決など、女性の権利擁護活動を手広くおこなっている人権団体だ。
前出の「阿媽家」についても、慰安婦に関連する展示は全体面積の半分ほど。残りは女性問題のワークショップ会場や困窮女性の自立支援の場として使われる予定だという。
「慰安婦に限らず、私たちは一切の売春行為や戦時性暴力に反対しています。例えばIS(イスラム国)の性奴隷制度も、韓国軍によるベトナム戦争中のレイプ問題も、過去の中華民国軍の『軍中楽園』(慰安婦制度)も、すべて問題だと考えています」(康氏)
やや極端だが、ブレない姿勢であることは間違いない。