爆買いにいそしむ中国人の間にも、複雑な人間模様は存在するようである。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。
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ゴールデンウィークを迎えた日本では、早くも中国人観光客による“爆買い”が目立ち始めた。いったい彼らは、なぜこれほどぜい沢ができるのだろうか。
この疑問に対する答えは不動産を中心にした彼らの大きな資産が挙げられる──もっとも理由は一つではない──のだが、「なぜ?」という疑問を抱くのは何も爆買いを目撃した外国人だけではない。中国人の多くも実は、疑問に感じているのだ。
だが、目下彼らは疑問に感じたとしてもそれを怒っている暇はないようだ。なぜなら彼らは、当たり前のようにブランド品を購入できる人々のつくり出すプレッシャーのなか、なんとか自分もそんな潮流に乗り遅れまいと必死になっているからである。
バブルの時代を経験した日本人には心当たりがあることかもしれないが、社会全体が消費の喜びに酔っているなかでは、ブランドを持てることこそが「正義」であるのだから仕方がない。
そんななか、『武漢晩報』が伝えた記事が大きな注目を集めた。タイトルは、〈ブランド品を買えない若い女性は、見栄を張るためにブランドのロゴの入った大きな紙袋を大量購入〉である。
記事によれば、いま中国では高級ブランドのロゴがはいったカラフルな紙袋が売れているという。購入者のほとんどは仕事を初めて数年の若者たちであるというが、社会人として“それなりに”見せるために必死で背伸びをしなければならない現実があるという。「そのプレッシャーが結構きつい」と、記事の中で告白していることが印象に残るニュースであった。