世界を揺るがす「パナマ文書」に中国共産党の現・元幹部クラスの9人の名前があることが判明した。中国当局はネットで「パナマ文書」関連の言葉を閲覧禁止とし、徹底的に隠蔽している。習近平国家主席がそこまで過敏に取り締まるのはなぜか。中国ウオッチャーのジャーナリストで拓殖大学教授の富坂聰氏が分析する。
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「パナマ文書」をめぐりアイスランドの首相が辞任するなど、文書に名前が挙がった各国首脳が窮地に立たされている。中国では、習近平国家主席の姉の夫(義兄)の名前が挙がったことから、「習近平が親族を使って不正蓄財をしているのではないか」と疑惑の目を向けられている。
そもそもパナマ文書とは、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した顧客情報が記載された資料のこと。50か国140人以上の政治家の名前が挙がっているとされており、習近平の義兄のほか、現職の党中央政治局常務委員・劉雲山や張高麗、歴代の党幹部クラスの子弟・親族ら9名が公表された。
パナマ文書が中国にどのような影響を及ぼすかは今後を注視する必要がある。しかし私は、この問題が直接的には習近平体制の土台を揺るがすほどの脅威にはなり得ないだろうと見ている。そもそも今の中国に、習近平を取り締まる機関や法律は存在しない。
また、習近平は極めてスキャンダルに強い政治家だといえる。2012年に米国の通信社ブルームバーグが習近平に関わる金銭スキャンダルを報じた時も、目立った影響はなかった。
当時はネット規制も今に比べれば緩やかで、多くの中国人はその記事について知っていたが、街中で彼らに聞くと「共産党幹部はみんなやっている。同じやるなら習近平がいい」と異口同音に語っていた。
加えて、共産党トップのスキャンダルは国民にとっては縁遠い話でもある。自分や家族の健康・生命が脅かされ、明日の生活に関することなら、人民は直情的に反応する。
直近でいえば、地方政府幹部の失言に端を発する騒動がいい例だ。今年3月6日、全人代(全国人民代表者会議)で陸昊・黒竜江省党委員会副書記兼省長が、省内に半年以上も賃金を受け取っていない炭鉱労働者がいるにもかかわらず、「炭鉱現場で働く約8万人の労働者について言えば、わずか1か月の給料の遅配も起きていない」と発言した。
これを聞いた黒竜江省の炭鉱労働者は激怒し、「北京を目指せ」と全国の炭鉱労働者に呼びかけたため、大きな炭鉱を抱える地方政府は臨戦態勢に入らざるを得ない事態が起きた。習近平の金銭スキャンダルは、こうした問題とは趣が違う。
※SAPIO2016年6月号