「灘の生一本(きいっぽん)」で知られる日本酒の名産地、兵庫県神戸市の灘五郷(なだごごう)は有名な酒蔵を数多く生み出した。
その中でも300年近い歴史を持つ2大名家が「菊正宗」の嘉納(かのう)家(菊正宗酒造)と「白鹿」の辰馬(たつうま)家(辰馬本家酒造)だ。
「嘉納家の分家には日本酒売り上げトップの『白鶴』の白鶴酒造(白嘉納)があり、辰馬家の分家(辰馬悦蔵商店)のブランド『白鷹』は伊勢神宮の神宮御料酒として奉納されているという格式を誇っています」(酒造メーカー役員)
古くからのライバル関係の両家は酒造以外の分野でも競ってきた。辰馬家が「福男競争」で知られる西宮神社の氏子総代なら、嘉納家の氏神はスケートの羽生結弦選手が参拝して話題を呼んだ弓弦羽(ゆづるは)神社。ここでは新年に奉納された菊正宗などの樽酒が振る舞われる。
所有する土地も広大だ。辰馬家は最寄りの阪神西宮駅から酒蔵までの1.5キロを「他人の土地を踏まずに行ける」といわれ、嘉納家の本拠、阪急御影駅の北側で白鶴博物館や高級マンションが建ち並ぶ一帯は「白鶴酒造」が所有している。
何と両家のライバル関係は「教育」にも及んでいる。嘉納家が中心になって造り酒屋の子弟の教育のために設立したのが「灘中学・高校」(1928年開校)。当初は「ボンボン学校」と呼ばれていたが、現在は全国屈指の進学校として名高い。
だが、学校運営に乗り出したのは辰馬家が一歩先で、1920年から学校法人辰馬育英会が中高一貫の「甲陽学院」を運営しており、昨年の京大合格者数では灘を上回っている。
※週刊ポスト2016年5月6・13日号