経営不振に陥ったシャープが、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されることが決まった。戦々恐々としているのはシャープのサラリーマンたちだ。彼らは今後、どうなっていくのか。4年前に中国ハイアールに買収された旧三洋電機元社員らのエピソードから、その未来は見えてくる。ジャーナリスト、永井隆氏がレポートする。
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三洋電機からハイアールに移籍した50代管理職は、ため息混じりに次のように語る。
「移籍してすぐ、メール処理だけで1日が終わってしまうようになりました。なぜなら、毎日大量の中国語と英語のビジネスメールが入ったからです。三洋時代はひたすら洗濯機を開発していて、ドメスティックそのものでした。あわてて語学学校に通いましたよ。さらに、東京から大阪に出張するかのように頻繁に中国に出張があり、消耗度は半端でない」
経営難に陥っていた三洋電機を完全子会社化したパナソニックが、三洋の白物家電(洗濯機と冷蔵庫)部門をハイアールに売却したのは2012年1月。事業規模は約700億円だったが、買収金額はわずか100億円だった。国内340人を含む3100人が移籍した。
売却当時、パナソニック役員だった元首脳は「本当は心を鬼にして、三洋の白物家電を完全にリストラすべきだった。敵に塩を送る如く二束三文で売ったのは、三洋社員たちへの温情が根底にあったため」と語っていた。
旧三洋の白物家電はハイアールアジアとして洗濯機「アクア」などを展開。日本コカ・コーラやデルなどに勤務経験がある伊藤嘉明氏を2014年から社長に迎えていた。が、伊藤氏は成果を出せないままこの3月に退任した。今年からブランド力アップを図るため、社名が「アクア」に変更された。
いずれにせよ、中国企業に買われるということは、上司も替わり、極端にいえば「社内公用語」も変わる。移籍した旧三洋の別のベテラン幹部は言う。
「三洋やパナソニックと比べ、ハイアールは幹部が30代や40代とみな若い。そんな若い連中を相手に、部門を超えてプレゼンをやることもある。慣れない英語を使うわけだが、若い中国人幹部から英語で厳しい指摘を受ける。時々中国語も混ざって、これが怒鳴られているように聞こえるから、キツイ」
ハイアールなど先進的な中国企業は、欧米企業並みの成果主義を導入している。
「ハイアールは成果主義を徹底している。『できません』とは口が裂けても言えない空気がある。個人的には、パナソニックに売られたように、成果が出せなければまた捨てられるのではという恐怖はいつもある」(同前)
※SAPIO2016年6月号