地域住民による建設反対運動といえば、火葬場やゴミ処理施設など、イメージがよくないが必要な施設が主だった。ところが最近はここに「保育所」が加わっている。かつては保育所や学校などが地域にあることは歓迎されたものだったが、いまは騒音その他を理由に敬遠される。そんな世の中の流れに逆らうかのように鉄道会社が保育所を増やすのはなぜなのか、ライターの小川裕夫氏がリポートする。
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「保育園落ちた日本死ね」と題された匿名ブログは、国会でも取り上げられて子育て支援は大きな社会的関心事になった。保育所が不足している原因のひとつに、保育士の給与がほかの職業と比べて低いことが挙げられる。行政は保育士の待遇改善に乗り出している。
保育士の待遇改善が子育て支援のソフト面だとすれば、ハード面は保育所の新設・増設ということになる。このほど、千葉県市川市で開園を予定していた保育園が住民の反対によって開園を断念していたことが話題になった。待機児童問題は、ハード面の整備も遅々として進まない。
地域住民たちが保育所の開園に反対する理由は、「子供たちの声がうるさい」「送迎バスなどが頻繁に通るから危なくなる」「保護者の送り迎えの車で渋滞になる」といったものだ。これらは、開園後の保育所に対しても寄せられる。このような批判が多く寄せられるのであれば、自治体も事業者も保育所の整備に後ろ向きになってしまうのは当たり前だろう。
ところが、保育所への風当たりが強まったここ20年で、逆に開設に力を入れている企業がある。それがJR東日本だ。JR東日本は1996(平成8)年に国分寺駅に隣接するホテル内に初めての保育所を開設した。その後も2000(平成12)年に東京都足立区北千住に東京都認証保育所を、横浜市に横浜保育室を開設している。JR東日本がとくに保育所の整備に力を入れるようになった大きな転機は、2004(平成16)年に埼京線に保育所を開設したことだった。
「埼京線の線路は東北新幹線や上越新幹線の線路と並ぶように敷設されています。東北・上越新幹線は建設時に周辺住民に配慮して、線路脇に約20メートルの都市施設帯という緩衝地帯を設けました。都市施設帯の用途は地元自治体と協議して決めますが、埼玉県戸田市から『都市施設帯に保育所をつくれないか?』との打診を受けたことから、保育所を整備することになりました。戸田市をはじめ埼京線の沿線は若い夫婦が多く住み、共働きが多いのが特徴です。そのため、保育所に対するニーズも高くありました。これを機に、弊社は埼京線を”子育て応援路線”に位置づけたのです」(JR東日本事業創造本部)
都市施設帯は線路脇に設けられているので、基本的には駅に隣接・近接している。都市施設帯を活用して保育所をつくれば、保育所は自然に駅近となる。立地上の特性を活かし、通勤時に子供を預けて退勤時引引き取るという、保護者にとっても利便性の高い保育所となっている。