日本の財閥3大グループは、それぞれの進化を遂げている。創業家の色が表面上はそれほど残っていないようにも見える三菱や三井(三菱=岩崎家、三井=三井家)と異なり、現在も江戸初期に「泉屋」として大阪で銅商を始めた創業家を象徴として頂くのが住友だ。
住友グループの経営者は、いまでも創業家の当主を「家長さん」と呼んで敬っている。屋号「住友吉左衛門」を継承する17代目家長・住友芳夫氏は、経営には口を挟まないものの、今なおグループに絶大な影響力を誇る。
最たるものは、「事業精神」の継承だ。住友家は、初代の政友が商人の心得を説いた「文殊院旨意書」を事業精神の原点とする。「正直」「慎重」といった心構えを推奨する内容だ。
「住友グループの社長に就任すると、家長さんから直々に『文殊院旨意書』のレプリカと銅橋のコピーが手渡されます。この“儀式”を経て、改めて住友の事業精神を心に刻むんです」(住友グループの関係者)
毎年4月25日には歴代の家長と従業員の霊を合祀する「祠堂祭」が開かれる。そうした席では家長自ら、「住友の事業精神を頭に入れてほしい」と出席者に要望するのだという。
ただし、住友家は住友グループの頂点に立ちながら、直接経営にはタッチしない。そこには理由がある。
「過去に本家の方が、グループ企業の社長に就任するかどうかが議題に上がったことがありますが、責任を負う立場になると、住友家の財産に危険が及ぶ可能性があるので、“あえて”就任しなかった経緯がある」(住友グループ関係者)
その時々の経営者よりも、創業家が続くことのほうが重要なのである。17代に及ぶ住友家だが、特に戦前は旧華族と密接な閨閥関係を結んだ。美智子皇后の実家である正田家(日清製粉創業家)とも婚姻関係にある。
※週刊ポスト2016年5月6・13日号