新年度が始まって約1か月が経ち、今年の新入社員の様子がだんだんわかってきた。スマートフォンの普及率が約5割になった2012年4月に大学入学し、2016年3月に卒業して新社会人になった彼らは、キーボードとパソコンが苦手で、周囲を驚かせている。
「少し前から、スマホのフリック入力はできてもキーボードを使えない大学生がいるという話がネットでも話題でしたけれど、大げさに言っているだけだろうと思っていました。でも今年、本当にそういう若者がいるんだとわかりました。同じ部署に配属された新人が、びっくりするくらいメールを打つのが遅い。マウスの右クリックがわからないみたいで、パソコンそのものに慣れていません」(30代男性・メーカー勤務)
あまりにキーボードを打つ手つきがたどたどしいので、その新入社員は学生にとってもっとも大きな文書作成作業である卒業論文を経験していないのではないかと先輩社員は考えた。ところが、歓迎会の席で卒論の有無を軽い調子できいたところ「卒論書きましたよ」と明るく返答され、先輩は絶句するしかなかった。締切にどう間に合わせたのかと問うと、自分のペースで間に合ったのだという。
キーボードやパソコンへの習熟度は、年々、低下していると神奈川大学で情報処理を教える非常勤講師の尾子洋一郎さんはいう。
「昨年の新入生は全員、最初の携帯がスマートフォンでした。自宅にパソコンがない学生も少なからずいる。中学や高校でも情報処理の授業はありますが、パソコンに慣れていない学生が目立ちます。当然、キーボードにも慣れていません。問題ない速さでタイピングできるのは、ネットゲームやメッセンジャーソフトで熱心にチャットをして遊んでいた学生くらいですね。
デジタルデバイドといえば、かつては不慣れな中高年と習熟した若者との落差のことでした。ところが今では、若年世代間にもはっきりと生まれています」
2000年代前半、パソコンを触ったことがない世代へ向け、当時の森喜朗首相の掛け声で日本全国でさかんにIT講習がおこなわれた。その頃、マウスをクリックしてくださいと講師に言われた中高年が、画面にマウスをあてていたという笑い話が広まった。そのくらい中高年と、パソコンを当たり前に使う若い世代にはデジタルデバイド、情報技術力に格差があるといわれた。
そのデジタルデバイドがいま、異なる形であらわれている。今回は若者のほうが、かつてのIT講習へやってきた中高年と同じくらいの情報技術力になっている。