前政権・胡錦濤時代に期待された民主化の兆候は、習近平政権の誕生で瞬く間に瓦解した。中国当局による弾圧は目を覆いたくなる。最近では東南アジアなど、国外にも張り巡らせた“密告網”により民主化を望む中国人が次々と捕らえられている。国際社会の目が届かぬ地で、中国当局は不穏の芽を摘み取っているのだ。
ノンフィクションライター・安田峰俊氏は、当局の弾圧を受けタイに逃れた民主活動家を取材。習政権に背く者に対する凄まじい拷問の実態が明らかになった。
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「中国共産党が倒れるまで、俺は死なない」
昨年2月27日。バイクのけたたましいエンジン音と排気ガスが吹き込むバンコクの喫茶店で、暗い表情を浮かべたまま呟く男がいた。姜野飛(ジャンイェフェイ)氏、当時47歳。現地に亡命中の中国人だった。
四川省出身の姜氏は、かつて2008年5月に四川大地震が発生した際、法輪功(中国国内で弾圧されている新宗教団体)系メディアの取材に応じたことで公安に連行されてしまった。
本人は法輪功の信者ではなかったにもかかわらず、睡眠すら許されず3日3晩の取り調べを受けた。上半身裸で天井から吊るされ、殴打され、電気棒による拷問も受けたという。
火傷だらけの身体で釈放されると、姜氏は職場を解雇されていた。何度も再就職を図ったものの、いずれも公安の嫌がらせを受けてすぐにクビになった。
「その後、再び当局に呼び出された。『スパイになればお前の生活を保障してやる』というんだ」
結果、もはや中国で生きる道はないと考えた姜氏は亡命を選んだ。ジャングルを陸路で越え、タイまで逃げたのだ。
「しかし、亡命者の立場では定職に就けず、月収は3000バーツ(約1万円)程度。現地でプロテスタント教会の仕事を手伝い、辛うじて暮らしている」
粗末な服装に丸刈り。話す境遇に偽りはないようだ。彼は「中国共産党への怒りだけが生きる支えだ」と私に語った。