芦田愛菜(11才)が、シャーロット・ケイト・フォックス(30才)とW主演を務める『OUR HOUSE』(フジテレビ系)の視聴率低迷が止まらない。5月1日の第3話は視聴率4.0%を記録。これで3話とも同時間帯の最低となった。子役として数々のドラマで高視聴率を記録してきた芦田の作品がこれだけ不振というのは珍しい。来月で12才となる芦田の演技は、これまでの作品と違うのだろうか? テレビ解説者・木村隆志氏の分析によって、芦田の今後の課題も見えてきた。以下、木村さんの解説だ。
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主演ドラマ『OUR HOUSE』の視聴率不振から、ネットには「愛菜ちゃんの演技がおかしい」「芦田さん、劣化した?」などの心ない声が飛び交い、今後を危ぶむような報道もありますが、本当にそうなのでしょうか。
今回の役柄は、大家族をスパルタで仕切り、父親が連れてきた外国人の後妻・アリス(シャーロット・ケイト・フォックス)に猛反発する長女。「アリスだけでなく、74才の祖父・奏一郎(橋爪功)や、7才の幼い弟・新太郎(寺田心)にもキレる」シーンも多く好感度を得るのが難しい役です。
芦田さんは、「私が家族を守らなければいけないから」と思うあまりキツく当たってしまうけど、大好きな父・奏太(山本耕史)の前ではガマンできずに涙があふれる、という繊細な子供心をメリハリのある演技で表現しています。
しかし、その演技に水を差しているのが、昭和風の長ゼリフ。まくしたてるように放たれる、「うっかり八兵衛」「寝た子を起こすなって言うけど」「公衆の面前で言っちゃって」「パパに近寄る悪い虫をつぶすの」「何よ、そのふて腐れた思春期特有のスネは!」「うぬぼれるのは顔だけにしてちょうだい」などの古びたセリフが、視聴者に「いかにも子役」という演技の過剰さを感じさせています。
気になるのは、「脚本・演出サイドが『マルモのおきて』(フジテレビ系)に出演していたころの『いかにも子役』という過剰気味な演技を求めているのではないか?」ということ。過去の出演作を見ても、芦田さんが「いかにも子役」という過剰な演技しかできないとは思えませんし、「子役らしい過剰な演技で視聴者の共感を得よう」という姿勢が足かせになっている気がします。
さらに、脚本・演出サイドだけでなく、オファーそのものにも同じ傾向が見られます。たとえば、昨年3月に放送された特別ドラマ『ラキッド』(NHK BSプレミアム)では、「父を失い10才で社長になった少女」、その前の『明日、ママがいない』(日本テレビ系)でも、「赤ちゃんポストに預けられた過去を持つ児童養護施設のリーダー」というトンデモない役でした。過剰な演技を求められる役ばかりで、いわゆる“等身大の役”がありません。つまり、“脱子役”のナチュラルな演技を見せる機会に恵まれていないのです。
今作では、芦田さんが「いかにも子役」という過剰な演技を求められている中、“脱子役”の演技を見せているのは、長男・光太郎役の「元こども店長」加藤清史郎さん。発展途上ながら、等身大の中学生を演じることで“脱子役”への道を歩きはじめていますし、芦田さんとのコントラストがはっきり表れています。
芦田さんは来月で12才になりますが、その扱いは6才で出演した『マルモのおきて』でマルモリダンスを踊っていたころや、8才のときに出演した『イロドリヒムラ』(TBS系)でウエディングドレスを着てバナナマン・日村勇紀さんと結婚式を挙げたころと、ほとんど変わっていません。芦田さん本人は、目の前の役と向き合い、手堅く演じているのでしょうが、めぐってくるのは「いかにも子役」という過剰な演技が要求されるものばかりなのです。
ローティーンは、子役としての売りであるあどけなさが抜けて、大人びた表情が見え隠れしはじめる時期。子役のイメージと異なることに視聴者から違和感を抱かれやすいため、古くから「子役は大成しない」と言われ続けてきました。さらに、最近は学園ドラマがほぼ激減するなど、「活躍の場そのものが少ない」などの逆境が加わっています。
実際、井上真央さん、鈴木杏さん、志田未来さんら子役の先輩は、主に学園ドラマでチャンスをつかんでティーンの壁を乗り越え、20代での活躍につなげました。それだけに芦田さんの置かれた環境は厳しく、現在主流の職業ドラマに出演しやすくなる20才前後までの時期が、まさに正念場。主演、助演、ゲスト出演を問わずに出演して“脱子役”の演技を見せるほか、ラブコメやサスペンスなどこれまで出演してこなかったジャンルに挑む姿勢が求められます。
同学年には、本田望結さん、鈴木梨央さん、谷花音さん、小林星蘭さんなどのスター子役がそろい、キャスティングをめぐる競争は続きますが、今回まだ小学生なのにセーラー服を着て中学生役を演じているように、今後も芦田さんはライバルたちの一歩先を歩いていくのではないでしょうか。こなしてきた仕事の量と質は、20代の一線級女優にも引けを取らないだけに、どこまで年齢的に“飛び級”の役を受けていくのか。もしかしたら、“飛び級”女優のパイオニアになるかもしれません。
2013年のハリウッド映画『パシフィック・リム』に出演した際、ギレルモ・デル・トロ監督から「私が仕事をした中で最も素晴らしい女優。本当は50才ではないのか?」と絶賛されたように、生涯女優を続けられるポテンシャルに疑いの余地はなし。『OUR HOUSE』はその通過点として、「中盤から後半にかけて演技のレベルを上げてくるのではないか?」と密かに期待しています。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。