映画『64-ロクヨン-』で県警の広報官役で主演する佐藤浩市(55才)。前・後編合わせて4時間を超えるこの作品は、横山秀夫の同名の警察小説が原作。前編では、加害者の匿名報道を巡り対立する県警・広報室と記者クラブの間で奮闘する三上(佐藤)の姿が描かれ、後半は、昭和64年に起きた未解決事件を連想させる新たな誘拐事件に立ち向かう三上の姿が描かれる。
前出演作の『ターミナル 起終点駅』に続き、今回も映画ライター・活動屋映子がその素顔に迫る。
――以前、「役は“作る”ものではない」とおっしゃっていましたが、今回も警察官の役作りはされなかったんですか?
「そうですね~(と、手を組み直し)役作りというか準備はしますよ。クランクインまでに、自分がどれだけまとめられるか、それに尽きますからね。どうやったらこの役の入り口を見つけて、どうやったら出口にたどり着けるのか。結局、その整理を撮影前にどれだけできるか、なんです」
――う~ん、哲学的で難しいですね(汗)。
「難しい、ですよね~(と、少し困ったように小さく笑う)」
――実際の刑事に会うとか、鋭い目つきを研究するとか、そういう具体的なものじゃないってことですか?
「そういう準備ももちろん大切ですが、今回は撮影に入る前に、三上がどういう男か左脳で考えて、撮影に入ってからは右脳で感じたことに対応した感じですね。基本的にはカメラの前に立って、“テスト!”の声がかかったとき、その役になれていたらいいと思うんですけど。哲学的って言っていいのかどうか…(と、はにかみながら首をかしげている)」
――どんな役でもそうですか?
「作品や役柄にもよりますね。三谷幸喜さんの映画『ザ・マジックアワー』と宮藤官九郎さんの映画『少年メリケンサック』は、どっちもコメディーですが、続けて撮ったんです。それで、三谷作品は徹底して計算に計算を重ねて撮影に入ったんですが、宮藤さんの方は何も考えず、ほとんど現場で右脳だけで対応しました」
――右脳と左脳、使い分けているということですか、すごい!!
ちなみに、左脳は主に論理的な事柄を司り、右脳は感性・感覚を司る、脳の機能だ。
「若い頃は、役についての青写真を描いて、その通りやらないと気がすまなかったけれど、今は自分で言うのもナンですが、右脳と左脳のバランスかな、と…」
ここまで聞いておきながら、演じる人の気持ちを言葉で説明してもらおうなんて、容易くできるものではない、ということをつくづく感じる。
撮影■森浩司
※女性セブン2016年5月12・19日号