女方の大名跡を3月に襲名したばかりの五代目中村雀右衛門の歌舞伎座公演に密着。女方の所作や化粧へのこだわりといった美しさの秘訣はもちろん、表舞台では見ることのできない飾らない素顔もキャッチした。
中村雀右衛門は、人間国宝、四代目中村雀右衛門の二男。実兄は八代目大谷友右衛門。1961年、6才で初舞台。1964年に七代目中村芝雀を襲名。今年3月に五代目中村雀右衛門を襲名した。
「名前を継ぐというのは、芸を継承するということ。名前に見合うよう芸も磨いていかないといけないので、責任の重さを痛感しています」
と真摯な眼差しで語る五代目雀右衛門。父である四代目は、晩年まで若々しい美しさと格調の高さで人気を博した。
「父は“気持ちを大事にしなさい”と言っていました。役の性根を理解し、強い気持ちで演じることで、お客様に心が伝わるのだと。また、父は形をとても大切にし、ひとつひとつの所作をきれいに表現していました。そうしたところも継承していきたいです」
歌舞伎の女方といえば、匂い立つような色気と立居振舞の美しさは女性以上だが、美の秘訣はどこにあるのだろう。
五代目は「まずは肌」と語る。“色の白いは七難隠す”というように、白粉のベースがとても大切。歌舞伎の化粧はグラデーションが重要で、顔は白いけれど色差しのあるところはピンクにしたり、立ち役の隈取りも縁を指でぼかすことで、遠くから見たときに美しく見える。きれいにぼかすには、ベースの白粉がきれいでないと、と強調する。
しかし、毎日のようにあれだけの化粧をするのは、肌にとってかなりの負担では?
「肌は丈夫なほうですけど、白粉を塗る前には鬢付け油をたっぷり塗るんですよ。油分で肌を保護するんです」
さらに美しい姿を保つために、体形も維持。
「若いときに伯父の松緑(二代目尾上松緑)に“女方をやるのにそんなに太っていたらマズいぞ”と言われて、1か月で12~13kgやせたことがあります。それが女方を目指すと最初に決意したときでした。その後も多少の増減はありますが、気をつけています。あとは姿勢。姿勢がよいと10才は若く見えます。背中はごまかせません。背筋がシャンとしていると素敵ですよ」
2013年の歌舞伎座新開場以来、歌舞伎は一大ブーム。初めての人も足を運ぶチャンスだ。
「歌舞伎は難しいと思われがちですが、庶民の間から生まれたものなので実は難しくありません。複雑な筋立てではなく、人の気持ちを表現しているお芝居ですから、若い人よりも年を重ねた人のほうが、人生経験が豊富になるので共感できることが多いと思います。音楽も生演奏ですし、舞台も華やか。自分の好みにあわせて楽しみ方を選べるのが歌舞伎の魅力です」
※女性セブン2016年5月12・19日号