社会の高齢化に伴い、前立腺がんの罹患数が増え続けている。2015年に国立がん研究センターが発表した1年間の罹患数予測で、前立腺がんは9万8400人に増加し、部位別で男性のがんのトップに立っている。
そんな前立腺がんの予防について、画期的な研究が進められている。3月末、米ハーバード大学の研究チームが欧州泌尿器科専門誌「ヨーロピアン・ユーロロジー」(電子版)で、〈1か月あたり21回の射精をすると、前立腺がんの発症リスクが2割も低くなる〉という研究結果を発表したのだ。
実は10年ほど前から射精回数の多さが前立腺がんリスクを減らすという研究結果が、欧米では報告されていた。2004年に米医師会誌『JAMA』に掲載された米国の調査では、1992年に46~81歳だった男性、約3万人を2000年まで調べたところ、20代当時の1か月あたりの射精回数が21回以上の人では、4~7回の人に比べて将来的に前立腺がんを発症する確率が3分の1だったという。
今回の調査は、この対象者をさらに2010年まで追跡調査したものである。前回と同じく20代の頃の1か月当たりの射精回数が21回以上の人は、4~7回の人に比べて前立腺がんの危険性は19%低かった。さらに今回は40代の頃の射精回数も調査したところ、月に21回以上の人では、22%もリスクが低いことがわかった。
1週間で約5回の射精は人によっては「多い」と思うかもしれないが、がんを防ぐとあっては見過ごせない。研究チームの一員で、ボストン大学大学院准教授のジェニファー・ライダー氏が言う。
「射精が前立腺における細胞のがん物質の蓄積を制限する、という仮説を立てて、この研究はスタートしました。長年の研究により、それが裏付けられた形です。我々のチームは現在、前立腺がん患者の研究を行なう保健機関から腫瘍のデータを手に入れ、射精回数と前立腺の生物学的変異の関係を調べています。今後、さらに詳細な結果を発表できるよう研究を進めていきます」
※週刊ポスト2016年5月20日号