甲子園球場の阪神ファンといえば口が悪いことで有名だが、虎ファンが目の敵にする巨人以上に手ひどく「ヤジのターゲット」にされてきたのが、4月26日に2000本安打を達成した広島・新井貴浩(39)である。
名球会に迎えられるのに、ここまでイジられる選手も珍しい。スタンドからは「ゲッツー王!」「エラーの天才や!」とヤジの嵐。罵倒されつつ愛される「新井サンの爆笑武勇伝」のはじまり、はじまり~!
「辛(つら)いサン」──もはやファンの間で定着した新井サンのニックネームである。2007年オフ、広島から阪神への移籍会見で「辛いです……カープが大好きだから」と語ったのが由来。「じゃあ広島に残って優勝させんかい!」と広島ファンに散々ツッコミを入れられる始末で、阪神のロッカールームでは、新井サンがミスをするたび兄貴分・金本知憲が会見映像のDVDを流すという“イジメ”が行なわれた。それが繰り返されるうちに、「辛いサン」はボーンヘッド連発の新井サンを揶揄する言葉となった。
数ある伝説で特に有名なのが阪神時代の2009年7月、ヤクルト戦で披露した「ヘッドツライディング」だ。
この日、お世辞にも俊足とはいえない新井サンがまさかの盗塁を敢行。気迫のヘッドスライディングを見せたが、飛び込むのが早すぎて手がベースに届かない。二塁ベース手前約1mで“停止”した新井サンは、スタジアム中に爆笑されながらタッチアウトになった。
続いては2010年5月のロッテ戦。同点の9回裏、1死満塁から城島健司が犠牲フライを打ち上げた。三塁走者のマートンがホームイン。「サヨナラだ!」とベンチを飛び出した阪神ナインを青ざめさせたのが二塁走者の新井サンだった。なぜか猛然とタッチアップを試み、三塁でアウトになっていたのだ。
マートンのホームインが先とジャッジされ事なきを得たが、あわや勝利をフイにする大失態。「オイ! わざとかコラ!」と城島が激怒したのも無理はない。
※週刊ポスト2016年5月20日号