タックスヘイブンの闇を詳らかにした「パナマ文書」が、世界のトップエリートに衝撃を与えている。インテリジェンス機関の関与も疑われるなか、果たして今後の国際政治にどのような影響を与えるのか。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏がスキャンダルの背後を読み解く。
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4月3日、ドイツのミュンヘンに本社を置く『南ドイツ新聞』と米国のワシントンに本部があるICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)が、パナマ文書に関する報道を行った。
パナマ文書とは、オフショア金融センターをはじめとするタックスヘイブンでの企業の設立支援を得意分野とする中米パナマのモサック・フォンセカ法律事務所が保有する秘密文書のことだ。
この法律事務所が、1970年代から2016年春までに作成した1150万件の秘密文書が匿名の情報源から『南ドイツ新聞』とICIJに提供されたという。4月3日に発表された情報には、各国要人の名が記されていた。5月にはより詳細な情報が公開されるという。
以前から、中国指導部の親族がタックスヘイブンを利用して資産隠しをしているとの憶測があったが、パナマ文書によってその事実が確認された。
欧米や日本ならば、この種の情報が流布されれば、深刻なスキャンダルになる。しかし、中国の場合、国家指導部が国民の選挙によって選ばれる体制にはなっていない。また、国民にも権力者とその一族は特権を濫用し、蓄財を行うものだという認識が共有されている。
また、パナマ文書に関する報道には厳しい制限が加えられているので、多くの国民は情報から遮断されている。従って、本件が習近平の権力基盤を揺るがすような事態には至らない。
これに対してウクライナのポロシェンコ大統領の場合は、パナマ文書によって大きな打撃を受けることになる。
「政治とビジネスを区別する目的のため」にタックスヘイブンに会社を設置したというポロシェンコ大統領の釈明にはまったく説得力がない。
ウクライナでは4月10日に収賄疑惑でヤツェニューク首相が辞意を表明した。汚職疑惑がポロシェンコ大統領にも及ぶ可能性は十分ある。そのとき、ポロシェンコ大統領がタックスヘイブンに会社を持っていることが資産の隠匿と見なされるであろう。