まさに「死中に活を求める」選択だったのだろう──。5月12日、日産自動車の傘下入りを決めた三菱自動車の益子修会長は、日産のカルロス・ゴーン社長兼CEOとともに開いた共同記者会見で、安堵の表情さえ浮かべたように見えた。
もちろん、2370億円を出資して三菱自の筆頭株主になる日産にとっては、ゴーン氏が述べるまでもなく、それ相当のシナジー効果を生み出さなければ意味がない。新技術の開発分担、生産拠点や車両プラットフォームの共用、販売網の相互活用など、さまざまな戦略的協業を模索していくことになる。
ゴーン氏が会見で繰り返し強調したのは、あくまで三菱自の独立性を保つという点。
「支配やコントロールが目的ではない。三菱は三菱のブランドのまま、自主性をもって経営をやっていく。そして、共に力を合わせることで、より良い仕事ができる」
だが、この言葉を額面通りに受け取れるほど、現実は甘くない。
「度重なるリコール隠しと今回の燃費不正問題によって、三菱車に対するユーザーの信頼は回復不可能なところまでいっている。スリーダイヤのブランド力が強い東南アジア以外は、いつバッジを外されても不思議はない。そして、最悪のシナリオは完成車メーカーの看板をおろして下請け企業に成り下がること」(自動車専門誌記者)
こんな厳しい見方が相次ぐ中、三菱自は本当にアイデンティティーを保つことが可能なのか。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏は「三菱らしさの原点に立ち返るべき」と指摘する。
「こんなに不正にまみれた会社のクルマでも熱心なユーザーはいます。しかし、往年の三菱ファンが求めている“らしさ”とは、今回問題になった燃費性能でも成長が期待される電気自動車でもなく、三菱車の持つ堅牢なイメージにあります」
そういって、井元氏が代表車種に挙げたのが、1999年まで日本で販売されていたワンボックスカーの「デリカスターワゴン」だ。
「いまは後継車の『デリカD:5』が売られていますが、あれだけ重量の重いクルマなのに、悪路を走ってもへこたれずに力強い走りをしてくれる。そのうえサスペンションが道路の大きなうねりを吸収しているので安定感もある。
こうした逞しさや俊敏さに優れたクルマこそが三菱車の専売特許だったのですが、他車との協業などで最大公約数的なクルマづくりをしているうちに、いつの間にかその本質を見失ってしまったのです」(井元氏)