この3月に公開された映画『仮面ライダー1号』で、藤岡弘、は、25歳のときに演じた主人公・本郷猛を70歳にして再演した。かつて映画俳優を目指して上京した藤岡は、アルバイトをしながら俳優養成所を経て松竹映画に入社。青春映画真っ盛りの時代だった1971年、テレビドラマ『仮面ライダー』の主役に抜擢され、アクション俳優の道を歩み始める。
『仮面ライダー』を演じた後、藤岡は、1977年から放送が始まったドラマ『特捜最前線』の桜井警部役などで地歩を固めていく。
1984年にはアメリカ映画『SFソードキル』にサムライ役で主演。このとき、日本人として初めて米国俳優組合のメンバーとなった。もっともこの映画は、藤岡が思い描いていたものと違い、サムライ像の間違った描き方もあった。このため、「本格的なサムライ映画をつくりたい」という想いが藤岡の中で頭をもたげてくる。しかし実際に資金を集め、映画製作に乗り出したものの、計画は頓挫する。
「海外の会社と組んで、映画をつくりたいとお金を貯めていたんですが、詐欺にあってすべて奪われてしまったんです。道は絶たれ、それを誤解したマスコミが叩いて私の足を引っ張った。
詐欺を見破れなかったのは私の不徳の致すところなんですが、そのあと、何年間かは仕事がすごく減りました。日本のためにと思ってやったことだったんですけどね。でも、それは、私の修行の旅の途中に起きたこと。どんな失敗も自分の糧として、自分の栄養としてそれを消化していけば、未来に繋がると思っていました」
藤岡は現在、NHK大河ドラマ『真田丸』に本多忠勝役で出演している。『勝海舟』での坂本龍馬役、『春日局』での織田信長役とこれまでに6本の大河に出演してきたが、22年ぶりとなる今回のドラマへの思いは格別だった。
「この武将は偉大だな、なんでこの人の名前が世に出てこないんだろう、とかねがね思っていたのが本多忠勝公だったんです。ずいぶん前に房総にある大多喜城に行ったときから忠勝に興味を持ち、資料を読んで惚れ込んでいた武将でした。
人を裏切らず、欲にかられず、忠義の知将でもある。こういうリーダーこそ組織にいて欲しい人間だと思っていたんです。だから、『是非とも』とオファーがきたときはびっくりしたし、三谷幸喜先生の願いと聞き、引き受けたいと思ったんです」
藤岡がこだわるのは、本物のアクションであり、よりリアルなシチュエーションだ。
「真剣を持ったこともなく、斬ったこともなく、竹光を振り回して敵がばったばったと倒れていくのを見ると、なんかちょっと違うな、と思う部分もある。アクションでも、私は相手に『真剣に本気で殴ってきてください』って言うんですけどね。いまは、CGがあるから大丈夫だと気軽にやっている感じもする。でも、アクションをやるならば、最低限の基礎体力を備え、実の訓練はすべきだと思います」
古希を迎えてなお、藤岡は、本物のアクションを欲し続ける。