「老後破産」をテーマにした論考は、シニア層の「収入」に注目したものが多い。最低限の生活が送れる“境界線”を生活保護受給者と同程度の収入(年収約160万円)に設定し、「65歳以上の世帯では、年収200万円以下が39.46%、100万円以下が13.2%を占める」(国民生活基礎調査、2014年)などのデータを提示し、警鐘を鳴らす──といったやり方である。
もちろん、収入の減少は深刻な問題だ。年金給付額の引き下げ、介護保険や社会保険料の負担増(手取り額の減少)、高齢者の就職難など、どれも喫緊の課題だ。
一方で、“収入がある程度確保できるから安心”かといえば、そんなことはない。話題書『隠れ貧困』の著者で経済ジャーナリストの荻原博子氏はこういう。
「金融広報中央委員会の全国調査によれば、貯蓄ゼロの世帯は全体のおよそ3割で、意外なことに高年収でも貯蓄のない世帯が多い。
同調査では、年収750万~1000万円の世帯の11.2%、年収1000万~1200万円の世帯の13.5%、年収1200万円以上でも11.8%が貯蓄ゼロでした」
年収300万円程度でも半分以上の世帯が貯金できている一方で、収入が多くても、貯金が全くできない人たちが一定数いるのである。同調査は年代を限定したものではないが、中高年層から相談を受けることが多い家計再生コンサルタント・横山光昭氏も「収入が多くても老後破産のリスクはある」と指摘する。
「40代までに年収800万~1200万円くらいあった家計には問題が潜んでいることが多い。
サラリーマンの場合、50歳以降は収入が上がらず、むしろ下がっていくことがほとんどですが、節約を意識しなくても不自由ない暮らしを送っていた人ほど、年齢変化に伴う収入減や支出増に対応できない。つまり、老後が危なくなる。問題の本質は収入の多寡ではありません」
前出・荻原氏が取材した中堅メーカーの50代営業部長のケースはその典型だ。