国内

「送迎車の交通問題」も保育園建設の障壁に

 待機児童が問題になっている一方で、千葉県市川市では近隣住民の反対意見によって保育園建設が中止されるという出来事も発生した。園児の声がうるさいなどが反対の理由というが、さらに保護者の送迎の車が“交通問題”を引き起こすことも珍しくない。埼玉県に住む山内文江さん(44才・仮名)の家は保育園の並びで、大通りから1本内側の細い道路沿いにある。

「朝の通勤時間帯は国道の抜け道になって、家の前の道はただでさえ交通量が多い。そこに保育園への送りのお母さんたちがズラッと車を停めて車列を作るから大変です。夫が通勤で使っている車を駐車するスペースから出そうとしても出せないことがあるぐらいです」(山内さん)

 その道路は、送り迎えの母親の自転車も行き交う。朝は会社への出社に、夕方は保育園で定められたお迎えの時間に間に合わせるため狭い道でも猛スピードで走る。山内さんは何度もぶつかりそうになったことがあるほか、目の前で自転車同士がぶつかる事故を目にしたこともある。

 開園を断念した市川市でも、近隣住民たちが反対したのは「道路の問題」も大きかった。建設予定地の前の道路は狭いところでは幅2.9mほど。しかも一方通行でもない。

「車が通る時は、歩いていてもすれ違うのが怖いくらいの道幅です。園に通う子供だって危険ですよ。しかも園児108人の規模なのに駐車場は2台分、自転車は10台分のスペースしかないという。騒音もそうですが、そもそも保育園を建てるべき場所ではありません」(近隣の住民)

 最近では駅前の雑居ビルの中や鉄道の高架下などに保育園を設置するケースも増えているが、規模は小さく、受け入れられる園児の数は限られる。また、園庭を持たない保育園は近くの公園や広場を園庭として使っているが、そうした所が増えていけば、そこで新たな“騒音”問題が起きる可能性もある。

 実は、東京都では公園内に保育園を開設する新たな動きがあるが、公園の本来の目的とは違う形での利用には住民の反発の声も出ている。

 昨年、渋谷区では上原公園に保育施設設置の計画を立てたが、見直しを求める声が地域住民から出たため計画は頓挫したままだ。

 かくも根深い保育園を巡る騒音と交通安全の問題。評論家の呉智英さんはこの問題について次のように指摘する。

「極端な例で言えば、原発の是非にかかわらず出てくる放射性物質の処理工場。どこかに造らなければならないけれど、自分の町に作られたら困る。火葬場やゴミ処理場も同じで、公共的な利益があるからといって、自分の家のすぐ近くにできると迷惑だと感じてしまう。それでも必要なのだとしたらどこかで妥協点を見つけていくしかないけれども、他の施設の例を見てもいつまでも反対する人もいて、妙案は見つからない」

 保育園側でも、大声を出さないよう園児に指導したり、園庭での活動を制限したりするなどの対策を取っているところは多い。時には園庭で泣きだした子供を保育士が抱きかかえ、「こっちで泣いて」と室内に連れていく姿さえ見られる。しかし、それが妥協点になるかどうか、近隣住民の話に耳を傾ける限り、難しいところだろう。

※女性セブン2016年5月26日号

関連キーワード

トピックス

急逝した俳優の西田敏行さん
晩年は病魔と闘う日々だった西田敏行さん「どう命をたたむか毎日考えている」「死を考えることが幸せ」東日本大震災で紡ぎ出された独特の死生観 
女性セブン
近藤真彦×三原じゅん子 還暦を迎えた2人のスペシャル対談!
【対談・近藤真彦×三原じゅん子】“金八”時代を振り返る「生徒役の中でもずば抜けて美人で“あのにおい”にやられてしまった」
女性セブン
シャンパンファイトでクレイトン・カーショー投手と肩を組んで満面の笑みの大谷翔平(写真/Getty Images)
大谷翔平、初のポストシーズンで“感情爆発”シーン カーショーと肩を組み満面の笑み、カメラに向かって大口を開けてニコニコ顔も 
女性セブン
経営者の”ズンちゃん”ことズオン・ティ・ミン・ホン容疑者(28)。20代にしてやり手の女社長だ
《ベトナムガールズバー摘発》28歳美人社長”ズンちゃん”はクルーズ楽しむほどの羽振り アオザイ着たキャストの“おねだり営業”で4億円以上売り上げ
NEWSポストセブン
どんな内容なのか?(元テレ東・池谷実悠アナのファンクラブサイトより)
元テレ東・池谷実悠アナ、月額2.7万円「超高額ファンクラブ」のスゴい特典内容 会員の名前を呼ぶ「メッセージ動画」も
週刊ポスト
旧5人のメンバー。左から石崎琴美、吉田知那美、吉田夕梨花、鈴木夕湖、藤沢五月(時事通信フォト、Loco Solare)
《消えたロコ・ソラーレ功労者の現在》“切実な事情”でチームを去ったメンバーがカーリング離れて「病院勤務の専属職員」に転身
NEWSポストセブン
新築で購入時は何の問題もなかった(イメージ)
「隣人ガチャ」にハズレたタワマン住人の嘆き 「中国人が10数人で暮らし始め…夜は大きなカラオケ音が…」転居を決めるまでの顛末
NEWSポストセブン
10月17日、東京・世田谷区の自宅で亡くなった西田敏行さん
誰からも愛された西田敏行さん 大御所然としたところはなく誰に対しても物腰柔らか「ご近所さんから講演を頼まれてもふたつ返事でOK」 
女性セブン
失踪報道が出たピーコ
《おすぎとピーコの老老介護その後》荒んでいった生活…ピーコさん「おすぎとは違う施設に」と望んだ理由
NEWSポストセブン
自分の代わりに市川團子(左)をテレビに出したい思いも強いという
テレビから消えた香川照之が注力する息子・市川團子の“マネジメント” 「テレビに出したい」父と「歌舞伎と学業に専念したい」息子のすれ違い
週刊ポスト
息子を遠くで見守った
「とんでもない運動神経」慶大野球部・清原正吾秘話 父・清原和博氏の逮捕、断絶を乗り越えた先に…入部挨拶を父は遠くで見守った
週刊ポスト
急逝した俳優の西田敏行さん
西田敏行さん急逝 外出中に一報を聞いた妻は「自宅にいれば…」と憔悴 来年1月期にはドラマ出演も決まっていた 
女性セブン