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恋の記憶が胸に沁みる 小池昌代43篇のアンソロジー

【著者に訊け】
小池昌代さん/『恋愛詩集』/NHK出版新書/799円

【本の内容】
〈今日も明日も、一見恋とは程遠い現実のなかで、汚れにまみれながら生きている、わたしたち〉──に向けて、詩人・小池さんが古今東西の「恋歌」から43篇を厳選したアンソロジー。それぞれの詩に添えられた解説からは、小池さんがどんなふうに詩をよみ、愛しんでいるかが伝わってくる。

 恋は、どんなふうに詩によまれてきたのか。初恋や一目惚れもあれば、終わってしまった苦しい恋の姿も。小池さんの心を震わせた43篇が、コンパクトな新書サイズにおさめられている。

「今、恋愛の生々しさが薄まっている気もして、詩に書かれた恋を広く探してみたい気持ちがありました。一方で、私自身、年齢を重ねてきたこともあり、桜を見ても、紅葉を見ても、恋心を感じることもあります。桜の精と恋をかわしたいにしえの歌人のような情感も含めて恋愛詩集をつくりたいと思って」

 空に虹がかかる瞬間をとらえた宮沢賢治の短い詩『報告』や、大岡信の『はる なつ あき ふゆ』など、「『恋愛詩集』というタイトルを少し裏切るような詩」も入れている。

「テーマに縛られすぎると詩が自由にはばたけない気がして、あえて広くとっています。アンソロジーに収録する許諾をとるとき、『これが恋愛詩ですか?』って作者に驚かれたりもしました(笑い)」

 古今東西、男も、女も、恋の詩をつくっている。

「男性詩人に女性性があったり、その逆だったり、詩人って性を超越しているところがありますね。滝口雅子の『男について』や新藤凉子『遅い』は断定的でタンカを切る感じ。大手拓次の『夜の脣』はとてもロマンチックですし、室生犀星(『夜までは/舌』)は女になりきって書いています」

 恋は一種の狂気だと、小池さんは言う。

「嵐の中に人間を巻きこんでしまう。終わってしまえば、あのときの自分と今の自分がまったく違って、べつの人間が恋をしていたとしか思えないこともある。恋がすべてではないけれど、生きているうちにああいう狂気を味わうというのはすばらしいことなんだよ、って若い人に伝えたい気がします」

 天野忠『好日』のように、老夫婦のおだやかな日常の先にある、峻厳な死を描く詩も。それぞれに、小池さんによる短い解説がつき、詩が書かれた背景がわかる。亡き夫との夢の中での性交を描いてどきりとさせられる茨木のり子の『夢』は、詩人の死後、遺品の箱から発見された作品だという。

「これも恋ですよね。見えているものだけの世界ではなくて、死んだ人とだって交流できます。詩を知れば、生きることも死ぬことも怖くなくなる。詩は人間の生を支えるものなんです。私自身、詩があるということで救われた人間なので、私がいいと思った詩を同じようにいいと感じる人がいるんじゃないかと思っています」

(取材・文/佐久間文子)

※女性セブン2016年5月26日号

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