堺雅人主演で、個性派の役者陣の起用でも話題を集めるNHK大河ドラマ『真田丸』。午後8時から放送の総合放送に先立って、午後6時からBSプレミアムで放送される分も高視聴率を記録するなど、放送開始から半年近く経ってもまだまだ好調が続く。大坂篇もいよいよスタートしたが、小日向文世演じる豊臣秀吉らの「“名古屋弁”に注目している」というのはコラムニストのペリー荻野さんだ。以下、ペリーさんの解説だ。
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『真田丸』は、主人公真田信繁(堺雅人)が巨大な大坂城に口あんぐりして大坂篇に突入。行方不明だった姉・松(木村佳乃)も戻って、にぎやかになり、視聴率も上がってきた。
そこで私が気になったのは、言葉のイントネーション。要するに秀吉らの名古屋弁(学術的には細かい分類があるかもしれないが、ここはざっくりと名古屋弁ってことで)である。ドラマの場合、あまり方言が出過ぎるとわかりにくくなるため、セリフではあまり使われないことも多いが、『真田丸』では秀吉一族は名古屋弁を使う方向らしい。そこで今回は、三河生まれ、名古屋育ちのペリーが「真田丸 名古屋弁チェック」をしてみようと思う。
まずは小日向文世演じる豊臣秀吉。秀吉は、天下人となり、キンキラの大坂城の主となっても名古屋中村生まれの言葉はそのまま。関白になると下の身分の者とは酒も飲めないと知り、「わしだけ偉なっても仕方にゃーしよー」と仲間の大名の官位も上がるよう朝廷に願い出たという。信繁を頼りたいときには、「わしゃこう見えてもどえりゃあ気が小せえもんで…」「力になってちょー!!」、家康(内野聖陽)に他の大名たちの前で一芝居打ってくれと頼み込むときは「やってちょーでゃーせ!!」とごり押しする。「にゃー」「ちょー」など小さな「ゃ」「ょ」は名古屋弁イメージの基礎ですね。秀吉の場合、この馴れ馴れしさが人たらしの武器にもなっていることがよくわかる。
また、笑っているのに仏頂面、と評判になった秀吉の妹・旭(清水ミチコ)。個人的には愛知の隣県岐阜出身の強みを活かして、何かやってくれるかと期待したが、なんとセリフは一言のみ。三谷幸喜から出演依頼があったとき「セリフはなしで」と申し出たらしい。思えば、かつての大河ドラマ『おんな太閤記』では旭を演じていたのは、泉ピン子だった。そのモノマネでもよかったが…。いつかこっそりとやってほしいものである。
そして、インパクト抜群だったのは秀吉の母なか役の山田昌。自分が日本のトップだと示すために家康の上洛を促したい秀吉は、「家康のところに行ってちょーせんか」と母に徳川の人質になってと頼む。「自分の実の母親を」と妻の寧(鈴木京香)は名古屋弁イントネーションで猛反対。しかし、息子の言葉を聞いたなか本人は「藤吉郎が助かるんなら、私、喜んで行くぜーも」「なんだしゃん、私、楽しいような気がしてきた」「私、喜んで行かせてもらうでなも」とにこにこ。息子の願いをあっさり受け入れる。
「ぜーも」も「なんだしゃん」も「もらうでなも」などハイクラスの名古屋弁を三連発。すらすら出てくる山田昌。秀吉の言葉を借りれば「さすがはお袋さまだぎゃー」である。
山田昌といえば、古くは故・川島なお美ら名古屋系俳優が多数出演したドラマ『名古屋嫁入り物語』シリーズ不動の名古屋の母役として知られる。現在86才。名古屋弁のレジェンドである。
これまでの大河ドラマでは竹中直人主演の『秀吉』でなかを演じた市原悦子が、派手な身なりのうつけ者信長(渡哲也)を観て「そんでもええ男~」とつぶやいたり、ふんどし一枚で走り回る秀吉(竹中)を観て「なんでふんどしいちみゃあなんだ」と叫んだりと、名古屋弁母伝説を作ってきた。今回の山田昌はさらにネイティブ感あふれるなか像を見せつけた。
今後、秀吉がどんな言葉で茶々(竹内結子)にメロメロになるのか。寧が夫を諌めるのか。聞き耳をたて続けることにしよう。