ついに「人類最強の棋士」とコンピュータの対戦が実現するかもしれない──。発端は、羽生善治・名人が9日にマスコミの前で放った一言だった。
「近々、何かしらのアナウンスができると思う」
NHKスペシャル『天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る』(5月15日放送)の試写会後の会見で、人工知能との対局の可能性を聞かれての回答だった。
プロ棋士とコンピュータ将棋ソフトの棋戦「電王戦」は2012年にスタート。団体戦で人間側が負け越す(2013年、2014年)などプロ棋士の苦戦が続いているが、羽生名人の出場はない。
「今の将棋界で実力ツートップは羽生名人と渡辺明・竜王ですが、その2人に次ぐレベルの棋士はすでに敗北を喫した。羽生さんは人類最後の砦です」
ある将棋連盟関係者はそう前置きした上で、これまで羽生vsコンピュータが実現しなかった理由について、こんな言い方をした。
「それは、実現したらかなりの確率で羽生さんが負けちゃうからですよ」
コンピュータの力量はすでに名人の力をも遥かに凌駕しているというのが“業界の常識”だというのだ。『ルポ電王戦』の著者でルポライターの松本博文氏の話。
「たしかに将棋ソフトは、すでに人間が及ばない域に達したといえるでしょう。ここ数年の電王戦も、PCの性能に制限を設けるなど、機械に“不利な条件”を課して勝負を拮抗させている。羽生名人自身はこれまでも、ソフトとの対戦に前向きな発言をしていましたが、本人がやる気だとしても、“最強名人が負けたら困る”と考えた周囲がその状況を許さなかったところはあるでしょう」
仮に今回の羽生名人の言葉通り、近く対戦が実現するのであれば、ついに「人類の完全敗北」になってしまうのか。松本氏はこういう。
「いや、人類の敗北ではないでしょう。コンピュータをつくったのは人間です。しかも、将棋ソフトは『プロ棋士の棋譜』を自動学習して強くなってきた。羽生名人の棋譜もかなりの数を学習しているので、将棋ソフトは“出来のいい弟子”のようなものです。負けても羽生名人の名声は一切傷つかないと思います」
であれば、最強名人vs最強ソフトの対戦を早く見てみたい。
※週刊ポスト2016年5月27日号