夫が毎日朝から晩まで家にいる生活が負担となり、妻がめまいや耳鳴りなど様々な心身の不調をきたす「夫源病」。3月に掲載された朝日新聞への精神科医による投稿がきっかけで、話題となった。夫の定年退職をきっかけにあらわれるこの症状と同様のものに悩まされる男性も急増している。それは「妻源病」と呼ばれている。通院とまではいかずとも、妻と一緒の時間が重荷という声は多い。
妻の言葉は、「仕事」という拠り所を失った夫の心に容赦なく突き刺さる。
「定年後初めての正月に妻から“年賀状が少なくなったね”と気にしていることを指摘されました。家でゴロゴロしていると“仕事がないと新年会をする友達もいないのね”と。軽蔑したような表情がグサリと来ましたね。それ以来、“オレはもう誰からも必要とされてないんじゃないか”とすぐふさぎ込んでしまう」(元建設会社勤務男性・62歳)
不機嫌な妻を過敏に意識してしまうケースも。元医療機器メーカー勤務の63歳男性がいう。
「昼食を少しでも残すと不機嫌な表情で台所のドアを“ドン!”と閉めて、何を話しかけても答えない。僕が使った後のトイレや洗面所を“チッ”と舌打ちしながら黙々と掃除する。“汚しちゃった? ごめん”と謝ってもまるで無視です。“この家に居てはいけないんじゃないか”と自己嫌悪で暗くなってしまう」
こんなエピソードを聞けば、妻たちが「モンスター化」しているように見えるが、もちろん彼女たちもストレスを抱えている。「夫源病」の名付け親・大阪樟蔭女子大学教授の石蔵文信医師はこう指摘する。
「夫がずっと家にいることで、妻たちは友人と会ったり、趣味に時間を割いたりすることを諦めなければいけなくなる。そのうえ“昼食を作る”という新たな家事が大きな負担になる。女性たちのストレスは、男性以上に大きい。“老後はいつまでも一緒に仲良く”という夫婦愛の形は、幻想なのです。
お互いのためにも、夫婦が一緒にいる時間は制限すべきです。私は3時間で十分だと思っています。5時間以上だと絶対に危ない」
妻に「昼食ストレス」を与えずに5時間だけ顔を合わせるとすれば、朝食前後に2時間、夕食前後に3時間程度といったところか。現役時代を思えば、それでも夫婦の時間は十分だろう。
石蔵氏のアドバイスを裏付ける調査もある。シンクタンク「住環境研究所」が2012年に行なった「定年後の夫婦2人の暮らし方調査」によると、「夫婦といえども1人の時間が欲しい」と回答したのは女性で72%、男性で52%にのぼる。「夫婦別々の時間の確保」が求められているのである。そうしなければ、互いに体調を崩し、「熟年離婚」という最悪の結果さえ生みかねない。
※週刊ポスト2016年5月27日号