日本のプロ野球界において“球界の盟主”と呼ばれるのが読売ジャイアンツ。特別な存在として、選手時代に常に注目され続けた“元巨人戦士”たちは、第2の人生をどう過ごしているのか?
1984年のドラフト前、「巨人以外なら実家の寺を継ぐ」と宣言した藤岡寛生(49・ドラフト2位)は現在、兵庫県神戸市の照願寺で僧侶を務めている。
「初めてお経を上げた時は脚の震えが止まりませんでした。一軍の初打席でもそうはならなかったのに」
3年目に二軍で打点王を獲得。時には合宿所の門限を破り、非常階段の有刺鉄線を乗り越えようとしてズボンがビリビリに破れた上に、罰金30万円を取られたこともあったという藤岡。1995年の引退後はプロゴルファーを目指していたが、父親が倒れたのを機に仏教を学び、2002年に僧侶の資格を取得。2005年には、JR福知山線の脱線事故で犠牲になった当時21歳の女子大生の霊を慰めた。
熱烈な阪神ファンだった彼女はこの年の優勝を信じ、父親と胴上げの瞬間を観に行こうと約束していた矢先の悲劇だった。その話を聞いた藤岡は、巨人時代の同期で広報になっていた藤本健治に9月29日の甲子園のチケットを頼み、両親に渡した。彼女の遺影の前で、岡田彰布監督が宙に舞った。
「ご遺族にとっては、それが良かったのか、より悲しみが増したのかわからないですけど……」
今年10月には82歳の父親の後を継ぎ、江戸時代から続く寺で7代目の住職に就く。
(文中敬称略)
■取材・文/岡野誠 ■撮影/佐藤敏和
※週刊ポスト2016年5月27日号