老後破産をテーマにした論考は、シニア層の「収入」に注目したものが多い。しかし、“収入がある程度確保できるから安心”かといえば、そんなことはない。
金融広報中央委員会の全国調査によれば、貯蓄ゼロの世帯は全体のおよそ3割で、意外なことに高年収でも貯蓄のない世帯が多い。同調査では、年収750万~1000万円の世帯の11.2%、年収1000万~1200万円の世帯の13.5%、年収1200万円以上でも11.8%が貯蓄ゼロだった。
家計再生コンサルタント・横山光昭氏は、計画的に支出を減らしていく「生活のダウンサイジング」の重要性を説く。そして、リタイア後の支出の「目安」を知っておくことが大切だという。
「総務省統計局の家計調査をもとに試算すると、65歳以上世帯の毎月の生活費の平均は27万円ほど。55歳くらいで、生活費がいくらかを把握し、“どのくらい生活水準を下げる必要があるか”のイメージを持ち始めるべきです。定年してスパッと切り換えるのはかなり難しい」
逆にいえば、そうした想定ができれば、年収や年金額が少なくても危機には陥りにくいということだ。話題書『隠れ貧困』の著者で経済ジャーナリストの荻原博子氏は退職後を考える上でまずやるべきは、「住宅ローンの繰り上げ返済」だと強調する。
「一般的なサラリーマンの年金受給額は月20万円くらい。老後の収入は年間300万円を切るわけですが、それでも安心な老後を送るためには、遅くとも65歳時点では負債(借金)をゼロにする必要があります。
夫の収入が多くても安心せずに、妻も働いてそのぶんを住宅ローンの繰り上げ返済に充てる。それができれば老後の景色は大きく変わります。
たとえば35歳からの35年ローンを組んでいるなら、繰り上げ返済でなんとか65歳までに完済する。一般的な新築物件の総額3000万円のローンを想定すると、5年分は500万円です。専業主婦の妻が働きに出るようにして、数年かけて貯めるのは難しい額ではありません。夫婦でそうした危機感を共有することが非常に大切です」
老後破産は収入の多寡にかかわらず、誰にでもリスクがある。だからこそ冷静に先を見据え。面倒を厭わず計画的に「支出」を見直す作業が必要になるのだ。
※週刊ポスト2016年5月27日号