いっこうに解消されない待機児童問題の新たな解決策が求められている。経営コンサルタントの大前研一氏は、国ではなく地方自治体がそれぞれの地域に応じて対策を講じるべきで、民間の参入を促進しなければならないという。さらに大前氏が、地域の力を活用した新しい解決策を提案する。
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私は1993年に出版した『新・大前研一レポート』(講談社)で「日本を変える83法案」を提案しているが、その中に「(71)アダプション(養子縁組)法」というのがある。その内容は次の通りだ。
〈一、家族を最重視する社会を実現する上で、一定の条件を満たす人は3歳以下の子供を国籍を問わずにアダプトできるようにする。
二、養子はすべての点で家族の一員として、あるいは社会人として対等に扱われなくてはならない。〉
当時は、日本でもアダプションが普通のこととして抵抗なく認められるようになれば、独身者や子供に恵まれない夫婦でも家族を形成できるし、親が養育を放棄してしまった子供たちも施設ではなく家庭で育つことができる。そうなれば自然に、非嫡出子に対する偏見や差別もなくなっていくだろう――。そのように考えたのである。
これをアレンジして地方自治体が「義理の里親制度」、すなわち「エアビーアンドビー(Airbnb/ベッド&ブレックファスト)」ならぬ「エアエスアンドエス(Airsns/里親&里子)」を作るのだ。
具体的には、現在のような保育士や幼稚園教諭の資格がなくても、子供の安全などに関して一定の研修を受けたおばさん・おじさんや保育に興味のある主婦または夫婦が、自宅に子供を遊ばせることができるスペースがあれば、「義理の里親」として地元の自治体に登録する。そして、たとえばグーグルマップ上やヤフー地図上で場所と空き情報を組み合わせ、親が希望の時間帯に預かってもらえる“里親”を探せるようにする。
以前、調査したところ、都心で働く夫婦の場合、中央線沿線なら国立より遠い町に居住していると、子供を預けた施設の閉園時間までに迎えに行くことが難しい。その場合でも、“里親”がいてくれれば、電話1本で保育時間を延長してもらえるだろう。あるいは、夫婦でコンサートや映画に出かけて帰宅が遅くなるという時に一晩泊めてもらえるなど、融通が利くサービスもあればいい。
実際、すでに自分の子育てが一段落した中高年の母親たちの中には時間の余裕があるという人が少なくないが、国が定めた設置基準のハードルが高いため、自分たちでは子供を預かる施設が作れない。しかし、そういう基準は自治体がそれぞれの地域の実情に応じて決めればよいことだ。
たとえば、「スタッフ3人合わせて子供を3人以上育てた経験があれば認可する」という基準を考えてみよう。子育てを終えたおばさんの家に空き部屋と庭があり、他に近所のママ友2人をスタッフとして確保できたら、すぐに施設を作れる。子育ての経験がない若いアルバイトのベビーシッターを雇うよりも、そういうところに預けたほうが安心だし、温もりがあってはるかにいいと私は思う。
このような「義理の里親」を増やせば、待機児童問題は一気に解決するはずだ。保育園の場合、教育というよりも子供を預かってほしいというニーズが強いので、それで十分、足りないキャパシティを補うことができるだろう。
里親たちもそれなりの収入を得ることができるし、この仕組みを通じて中高年者と若い人たちが仲良くなり、コミュニティの人間同士のつながりが強まっていけば、都市のベッドタウンにとっては最高の地域強化策になると思う。まさに一石二鳥である。
最近は近隣に保育園などができると子供の声がうるさいという理由で反対する人が少なくないそうだが、防音対策などは十分配慮した上で、こうした施設があること自体はコミュニティが若くて活力があってよいことだとポジティブに捉えるべきだと思う。
※週刊ポスト2016年5月27日号