「老人ホームの選び方、入り方」は、経験したことがないと具体的にイメージしにくい。そこで注目されているのが、利用者と施設の「橋渡し役」といえる紹介業者だ。施設への入居を希望する本人や家族から要望を聞き取り、相性がいいと思われる老人ホームを紹介する。
では、入居者と施設の間に立つ「相談員」は、最適と考えられる施設をどうやって探してくるのか。
東京都と神奈川県に相談室を置く紹介業者・ケアミックスの柴田彰社長によれば、「多くの紹介業者では、相談員ごとに担当するエリアが決まっていて、新しい施設ができたら必ず見学に行く」のだという。
「実際に見ていない施設は責任もって紹介できないですからね。見学する際は、施設長やスタッフの方とよく話すように心がけています。老人ホームは施設長の人柄によって雰囲気やケアの質が大きく変わってきます。魅力的だった施設が、施設長が代わった途端にだらしない施設になることは少なくありません。
定期的に足を運んでケアの質がキープされているのかも確認しますし、入居者の方と同じ食事を食べたりもします。ベテラン相談員になると1年で数百のホームを訪問している人もいます」
見学を繰り返すことで、入居希望者に合った施設が紹介できるという説明である。興味深いのは、それだけの労力をかけながら、「相談・仲介手数料ゼロ」というビジネスモデルだ。入居が決まった際、紹介業者は入居者ではなく施設から手数料を得るシステムになっている。
「施設の規模や入居金によって様々だが、入居一時金が1000万円以上の場合はその3~5%、1000万円より少ない場合は30万~50万円を紹介業者が受け取る、というのが相場です」(関東に本社を置く紹介業者相談員)
紹介業者を利用する際にはそうした仕組みを知っておくことも重要だ。
「施設によっては“今月中に成約すれば手数料は1.5倍”といったキャンペーンを定期的に打つところもあります。施設側も空き部屋を作りたくないから必死なんです。紹介業者が、報酬の上乗せになびくケースもあるでしょう。だから入居を妙に急かすように感じたら、注意したほうがいいかもしれません」(同前)
紹介業者ビジネスに詳しい高齢者住宅コンサルタントの濱田孝一氏が解説する。
「老人ホーム紹介業は歴史が浅く、相談員になるための資格などもありません。そのため、非常に熱心な業者がいる一方、そうとはいえないケースもある。成約した際の手数料も含め、紹介業者と施設がどういう関係にあるのかも、利用者にはわかりづらい。これから環境やルールは整備されてくるでしょうが、現時点では玉石混淆です」
※週刊ポスト2016年5月27日号