【書評】『国宝消滅 イギリス人アナリストが警告する「文化」と「経済」の危機』/デービッド・アトキンソン著/東洋経済新報社/本体1500円+税
David Atkinson(デービッド・アトキンソン):1965年イギリス生まれ。日本在住25年。小西美術工藝社社長。元ゴールドマン・サックス金融調査室長。オックスフォード大学で日本学専攻。著書に『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』(東洋経済新報社)など。
観光立国化こそ日本経済を成長させると訴えた前著『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』(山本七平賞)に続く本書が話題を呼んでいる。
家庭から日本の伝統的な文化、工芸、技術が消えつつある今、それらを守る最後の砦は神社仏閣や美術品などの文化財である。だが、経済の停滞、氏子や檀家の減少などにより自力での維持が困難な上、国の文化財修理予算も少ない。このままでは日本の文化財は荒廃し、いつか消滅しかねない……。
元敏腕金融アナリストのイギリス人で、今は文化財補修を手掛ける老舗日本企業の経営者である著者はそう訴え、危機を脱するために文化財の大胆な観光資源化を提言する。
多数の文化財を守り、伝えていく立場にあり、現在、第60次の式年造替(一定期間ごとに神殿、神宝などを造り替えること)を行っている春日大社の花山院弘匡(かさんのいんひろただ)宮司はその主張をどう読んだか。(インタビュー・文 鈴木洋史)
──宮司は本書の著者と直接の付き合いがあるそうですね。
花山院:アトキンソンさんが社長を任されている小西美術工藝社にも春日大社の式年造替の仕事を請けていただいていますから、よく話をしますよ。
いつでしたか、こんなことがありました。彼が海外のオークション会社の図録を持ってきて、元々ある有名なお寺に伝えられていた文化財が売りに出されているのを示して、「これが海外に流出したら大変だ。是非買い戻してもらうようお寺に話をつないでくれないか」と訴えるんです。結局、お寺は買い戻す価値はないと判断したんですが、彼は自分が利益を得るわけでもないのにとても熱心でした。いかに日本の文化を愛しているかがわかります。
──著者の主張をどう思いますか。
花山院:もっと数多くの文化財を国宝や重要文化財に指定するべきだ、建物単位ではなく神社やお寺全体を指定するべきだ、保護の対象を広げるべきだ、そのために国の予算も大幅に増やすべきだなど、彼がこの本で言っていることのほとんどは的を射ていると思います。
彼は京都の町屋に住んでいて、古い町屋がマンションなどに建て替えられていくことを嘆いていますね。私も、文化財とまでは言えないものであっても、古い街並みとか、里山の茅葺きのように日本の原風景と言えるものは、白川郷などに限らず、国がもっとお金を出して保護するのがいいと思います。