衆参ダブル選という“奇手”の効果は、多くの人が「あり得ない」と思うからこそ意味がある。まして、過去前例のない都知事選との「トリプル選」ともなれば、誰もが現実にはありえないと口を揃えるはず。しかしそんな絵空事でも、時の総理が決断すれば現実になる。それをやりかねない雰囲気を、安倍晋三首相がぷんぷんと漂わせている。そこに追い風が吹き出した。
衆参同日選論が再浮上する大きなきっかけとなったのが伊勢志摩サミットで来日するオバマ大統領の広島訪問が内定したことだった。安倍首相にとって、オバマ氏とともに広島で原爆犠牲者の慰霊碑に献花する光景がテレビ中継されればサミットの大きな成果としてアピールできる。
オバマ広島訪問決定が報道されると内閣支持率は読売調査の53%(前月は50%)をはじめ軒並み上昇し、政府の地震対応も高評価。2016年1~3月期のGDP成長率の速報値もプラス0.4%で2四半期連続マイナス成長を免れた。宮崎謙介・元代議士のゲス不倫辞任や待機児童問題で政権批判が高まった2か月前とは情勢が大きく変わってきた。
「総理はこれで自信を持ち、解散のチャンス再来と見た」(自民党ベテラン議員)
政治評論家の有馬晴海氏もこう指摘する。
「衆参同日選はあると思う。今回の参院選は安倍さんが悲願とする憲法改正の最後のチャンス。3年後の参院選では自民党の改選議席が多く、大幅に議席を増やすのは難しい。だから今回3分の2に届かなければ改憲の機運は急速にしぼみ、自民党内でも“安倍首相の役割は終わった”というムードが漂うでしょう。それを避けるために、安倍さんは針の穴ほどのチャンスがあれば同日選を打とうと狙っている。
安倍さん自身、側近議員に『ダブルはある』と漏らしています」
参院選の投開票日は7月10日が濃厚で、衆参同日選を実施するには国会会期末の6月1日に衆院を解散しなければならない。
安倍首相は会期末まで2週間を切ったところで、自民党議員たちにムチを入れた。ギリギリまで解散はないと思わせ、いきなり衆参同日選を打つのは、「死んだふり解散(※注)」で圧勝した中曽根内閣当時のダブル選挙と同じやり方だ。
【※1986年、中曽根政権は野党やメディアに「衆参同日選はない」という空気が広がる中で衆院を電撃解散。大勝した後、中曽根首相は「解散は無理だと思わせた。死んだふりをした」との言葉を残した】
※週刊ポスト2016年6月3日号