高齢者人口の増加とともに高血圧患者が増え、降圧剤の服用率も年々上がり、70歳以上だと50%を超える(厚労省「平成26年国民健康・栄養調査」より)。
しかし、「降圧剤を飲めば安心」というのは間違いだ。2003年に東北大学の教授らが、降圧剤服用中の本態性高血圧患者3400人(平均年齢66.2歳)を対象に行なった大規模調査では、約60%が降圧剤が効かない「コントロール不良高血圧」との結果が出た。血管を広げ、血流の圧力を下げる降圧剤がなぜ効かないのか? 獨協医科大学の石光俊彦氏(循環器・腎臓内科教授)の解説だ。
「主な理由は、腎機能の低下にあります。腎臓は摂り過ぎた塩分を尿と一緒に体外に排出することで塩分量を調整しています。
血液中の塩分濃度が高くなると、体内の水分が血管内に流れ込み、塩分濃度を下げます。血液量が増えるため、この時、高血圧になりますが、腎機能が正常であれば、摂り過ぎた塩分は尿と一緒に体外に排出され、元の血液量に戻ります。ところが腎機能が弱まっている人は、排出が上手くいかず血液量は増えたままで元に戻らない。降圧剤を飲んでも効果が表われないのはこのためです」
糖尿病や腎動脈の硬化、加齢によっても腎機能は低下するため、コントロール不良高血圧患者は決して珍しくないのだ。問題はそれによって突然死のリスクが増大することである。東京都健康長寿医療センター顧問の桑島巌氏が解説する。
「降圧剤で血圧をコントロールできている患者に比べ、コントロールできていない患者は心筋梗塞や脳卒中の発生頻度が約3倍も高まるという研究データがあります。薬で血圧が下がっているとの思い込みが、高血圧の状態を放置させ、本当のリスクに気づくタイミングを逃し、突然死を招いてしまう危険性があるのです」
自覚していれば適切な処置ができる。利尿薬を使うことによって塩分を尿とともに排泄する方法だ。利尿薬には降圧作用も確認されており、腎臓や血管が硬くなった高齢者には特に効果が見込めるという。
※週刊ポスト2016年6月3日号