5月27日、オバマ大統領がアメリカの現職大統領として初めて広島を訪問する。今回の視察先の一つである広島平和記念資料館を巡り、現地ではちょっとした騒動が巻き起こっていた。
昭和30年に開館した資料館には、黒こげの弁当箱、原爆が投下された8時15分で止まった腕時計といった被爆者の遺品などが展示されている。
来場者の多くが思わず目をそらしてしまうのが、被爆者の等身大の人形だ。火傷でただれた両腕を突き出し、ボロボロの服でさまよう様は、原爆の悲惨さを伝えてきた。
だが、その人形が間もなく撤去される。2018年に予定されている資料館のリニューアルに合わせたものだが、広島市民を中心に反対の声が上がっている。
「多くの市民が、人形を撤去する理由は、怖すぎるからだと思っている。でも、資料館は原爆の悲惨さを伝えるために、ある種の怖さは必要。それなのに年々マイルドになっているように感じます」(反対派住民)
終戦から70年が経ち、さまざまな「物証」の劣化が進んでいる。そのため高熱によって体が焼き付き、座っていたお尻の部分だけが黒く残った「人影の石」は劣化防止のため、ガラスで覆われ、3歳児が乗ったまま被爆してボロボロになった三輪車も保護のため、樹脂コーティングされた。反対派からすると、それらも当初のおどろおどろしい雰囲気を失わせていると見えるようだ。
今回の人形撤去について、広島市はこう回答した。
「リニューアル後は、被爆者の遺品や写真、データ資料などを重視する方針で、残虐な印象を与えるから被爆人形を撤去するわけではありません」
オバマ大統領の訪問時、まだ人形は展示してあるという。資料館でオバマ大統領は何を感じるだろうか。
※週刊ポスト2016年6月3日号