史上最低水準の住宅ローン金利が続いているが、新築マンションの販売は一向に振るわない。「この先、停滞感がさらに強まる可能性がある」と危惧するのは、不動産ジャーナリストの山下和之氏だ。同氏に新築マンション市場の現状と今後の展望を聞いた。
――首都圏の新築マンション契約率が70%を切るなど、売れていないのはなぜか。
山下:一にも二にも、首都圏を中心に新築マンションの価格が高くなり過ぎているからです。2012年に4540万円だった首都圏新築マンションの平均価格は、2015年には5518万円にまで上昇し、この勢いは今年に入ってからも止まりません。4月は5751万円ですからね。
──それでは、いくら住宅ローン金利が超低金利になっても、買おうという意欲が沸いてこない。
山下:そうです。東京カンテイが調べた新築マンションの年収倍率(2014年)は、首都圏で9.68倍、近畿圏でも7.95倍となっています。2015年も新築価格は上昇したので、首都圏で10倍を超えているのは間違いありません。年収のできれば5倍、多少無理をしても6倍、7倍程度が限度といわれているだけに、これではとても手が出ませんよね。
それでも、バブル期のような年率二桁近い賃金上昇、株の高騰(日経平均で4万円近く)による資産デフレなどで先行き見通しが明るければ売れますが、いまはそうではありません。金利が1%以下に下がっても不安感のほうが強いのです。
──中国人が新築のタワーマンションを買い漁っているなどの報道もあったが。
山下:いまは中国を中心とするアジアの個人投資家の取得意欲も低減しています。やはり総合的にみた先高感が弱まっていて、投資的な魅力が乏しくなっていると思います。
最近までは、7、8年前に5000万円の超高層マンションを取得し、3年後に7000万円に買い替え、6年後に1億円に買い替えといった“空中族”が花盛りでしたが、そんな買い替えも難しくなっている。そろそろ手仕舞い感が出ています。
──売れないとなれば、価格も下がってくるのでは?
山下:いまのところ価格が下がる要素を見つけるのは難しい。新築マンションの分譲価格は、〈土地の仕入れ値+建築費+分譲会社の経費・利益〉で決定されます。しかし、一昨年、昨年と高値で仕入れた土地上でのマンション販売が始まっていることに加え、建築費も高止まりしていてゼネコンは安値受注をしていません。マンションを請けなくてもビルや復興事業などで十分やっていけますからね。
──分譲会社としても経費や利益の削減には限度があるから、なかなか価格を下げられない。
山下:はい。そこで、単価が下げられないとなれば、面積縮小や仕様の引き下げによってグロス価格を下げるという動きが出てくるのではないかと見られています。
すでに不動産経済研究所のデータでもその傾向が表れ始めています。2015年の後半は一戸あたりの専有面積の平均が70~72平方メートル台だったものが、今年1月は71.30平方メートル、4月には69.62平方メートルまでダウンしています。バブル期にも極端な面積縮小が起こり、大手でもひどい物件では50平方メートル台の3LDKが販売されたこともあります。