生活習慣病の予防効果やダイエット効果、そしてアンチエイジング効果まで報告されているオリーブオイル。いまや家庭で常備すべき油はオリーブオイルとゴマ油だけ、といった声も耳にするほどだ。実際日本では、健康ブームにも後押しされて、ここ数年で市場が急速に拡大し、5年間で輸入量は倍増の6万トンを突破。食用油ではキャノーラ油を抜いてトップの360億円市場となった。ところが…。
「こんなにも普及するようになっていまさらですが、あなたの家にあるオリーブオイルは大丈夫ですか?」と警鐘を鳴らすのは、日本を代表するオリーブオイルの専門家で日本オリーブオイルソムリエ協会理事長の多田俊哉氏。
多田氏の著書『そのオリーブオイルは偽物です』(小学館刊)によれば、日本に流通しているオリーブオイルの多くは輸入ブランド品だが、そのうち「本物」はわずか20%。残りの80%以上は品質が偽装された「偽物」だという。
店頭で販売されるまったくの新品の段階で、ボトルの中身が他のオイルにすり替わっていたり、品質が偽装され、悪臭漂うとんでもない粗悪な品質の代物がボトルに詰められ売られているというのだから衝撃的だ。
たとえば1996年、北米オリーブオイル協会がニューヨークの店頭でオリーブオイル73品を抜き取り調査してその品質をチェックしたところ、なんと純粋にオリーブオイルだったのはたった3品! 残りの70品は主にピーナッツオイルやヒマワリ油などが混ぜられていたことを『ニューヨークタイムズ』で発表した。
◆「エキストラバージン」はたった20%
こうした他の安いオイルを混入する「混ぜもの偽装」のほかにももうひとつ、頻繁に行われている代表的な品質偽装が「アップグレード偽装」だ。
「オリーブオイルの最高品質規格はエキストラバージンオリーブオイルですが、低級のバージン、時には食用に適さないオイルでさえエキストラバージンに化けて販売されています。実はこうした品質偽装オイルはきわめて多く、本当のエキストラバージンは20%にも及びません」(多田氏)
その原因はおおむね搾油などの工程段階に問題がある。頻繁に起こっているのが、収穫したオリーブ果実が腐敗・発酵したりカビが生えているのに、そのまま搾ってしまったケース。オリーブの実は傷みやすく、ちょっとでもカビが生えたり腐敗するとたちまち全体に広がってしまうため、収穫後遅くとも12時間以内に搾らなければいけないが、大量生産する際には面倒なので何日か分をためこんでからまとめて搾油を行うことが多い。すると作られたオリーブオイルは、その腐ったイヤな臭いや発酵による酸味、カビ臭さやカビの持つエグ味などをそのまま受け継いだ欠陥オイルとなる。
本来エキストラバージンオリーブオイルとは、一番搾りのオイルで、厳格な理化学分析検査と風味官能検査をパスしたごくわずかなものだけに与えられる最上級の等級だが、輸出国で行われている検査の基準はかなり緩く、その実態は有名無実化しているという。近所のスーパーの店頭で見かけるオリーブオイルは、不思議なことにエキストラバージンばかりだが、その多くが実はひどい品質の欠陥オイルである可能性は高いのだ。