5月27日は現職の米大統領が初めて広島を訪問するという歴史的な一日となった。オバマ大統領訪問前に広島で取材に当たっていたフリーライター・神田憲行氏が語る。
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オバマ大統領の平和記念公園訪問はさまざまな場面があったが、私にとってハイライトは、広島県原爆被害者団体協議会理事長の坪井直さんと大統領が握手を交わしながら会話をしたところだった。坪井さんは20歳のときに被爆し、全身を原爆の熱線で焼かれた。全身ヤケドだらけ、3回死にかけたと私の取材で話していた。だが、「恨みは理性で乗り越えた」といい、オバマさん訪問をなにより楽しみにしていた。
その坪井さんがオバマさんと握手し、ときに笑みを浮かべて語り合っている。オバマさんが献花をした原爆死没者慰霊碑の下には、原爆で亡くなった方たちの名簿が納められている。名簿はいまも被爆者の方が亡くなるたびに名前が追加され、更新されている。
坪井さんは「あっちには仲間がようけおるからなあ。そら、(死んで)ひとりぼっちになりたくない。あの世に行ったら仲間と賑やかにやりたいわ」と語っていた。坪井さん良かったなあ、仲間たちとワイワイできる大きな話の種ができたじゃないか、と思ったら私の目が滲んだ。
今回の訪問について、「レームダックの大統領が来てもしょうがない」「辞める大統領のレガシー作りなだけ」など、安倍政権の得点稼ぎに利用されることを恐れて、冷ややかな視線を送る人がいる。
確かにレガシー作りなどは一面は当たっていると思うが、オバマさんはもともと核廃絶に熱心な人物で、突飛な行動ではない。それに今回の訪問についての評価は、被爆者の人たち、広島の人たちがすれば良いと思う。あの人たちが涙を流して喜んでいるのなら、私は素直に立ち上がって拍手を贈りたい。安倍さんも岸田さんも政治家として仕事をされたと思う。ただそれと選挙の争点になっている憲法改正は別問題というだけだ。
今回の訪問がオバマさんのこれからの行動にどれだけ影響を与えたかわからない。原爆資料館の訪問時間が10分程度だったことに残念がる人もいる。たしかにあそこはまともに見ていけば1時間はかかるところだ。