中学で非行少年に、高校は2度退学…19歳で一念発起し、「This is a pen.」から勉強して20歳で大学に進学――広島県福山市にある塾「フジゼミ」塾長の藤岡克義さん(40才)は、そんな経験を塾生たちに語りながら、「人生、回り道してもマイナスじゃない」と説いている。藤岡さんは、著書『「つまずき 寄り道 回り道」小さな塾「フジゼミ」塾長と生徒たちの昨日、今日、明日』でも、「“普通の子”にならなくてもいい」などのメッセージを投げかけ、話題を集めている。同書の中から、一度は鑑別所に入りながら、今は弁護士を目指しているある元塾生のエピソードを引用して紹介する。
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たしかに、遠回りをしたからといって何をやってもいいわけではないし、法に触れる経験が必要だとも言えないし、それが財産になるとは言い切れません。一方で、ないとも言い切れないのです。
だいぶ昔、フジゼミに通っていた生徒に、「弁護士を目指す」という男の子がいました。彼は高校中退で、鑑別所に入った経験もあります。その鑑別所で出会った弁護士の先生を尊敬して、弁護士を目指すようになりました。
定時制の高校に通い直しながらフジゼミにも通い、司法試験に強い中央大学法学部を目指して1年間猛勉強しましたが、合格したのは國學院大學と東洋大学、そして法政大学(補欠)でした。もう1年頑張るという選択肢もありましたが、彼は國學院大學に進みました。
「不合格はショックだったけど、この1年間、自分は猛烈に勉強した。これ以上のことはできないというくらい勉強した。だから自信を持って大学に行きます。中央大学は、法科大学院を受験してリベンジしますよ」
とびきりの笑顔でそう言って入学した彼は、大学に進学してからも黙々と勉強を続け、中央大学法科大学院だけではなく、明治大学法科大学院、上智大学法科大学院にも合格しました。
彼が鑑別所に入ったとき、まさかこんな未来が待っていると予想した人はおそらく誰もいないと思います。彼自身もきっと想像していなかったでしょう。
でも間違いないのは、もし彼が鑑別所に入らなければ、弁護士の先生に出会わなければ、いまにはつながっていないということです。だからやっぱりぼくは、何をしてもいいわけではないけれど、どんな経験も財産になり得るんだと思ってしまうのです。