「核なき世界」を訴える米オバマ大統領の広島訪問に、「反対」の大合唱で足並みを揃えた韓国メディア。その報道を拓殖大学教授で韓国出身の呉善花氏が検証する。同氏は『「反日韓国」の苦悩』(PHP研究所)や『侮日論』(文春新書)などの著書がある。
* * *
〈広島訪問の決定は性急であり遺憾〉(中央日報)
〈日本は「広島」を前面に押し出して被害者面をしている〉(朝鮮日報)
5月中旬、オバマ大統領の広島訪問決定が発表されると、韓国の主要メディアは社説やコラムで猛反発した。正式決定の前から、韓国の知識人やメディアは同様の主張を繰り返していた。
本来、「核兵器のない世界」をめざすオバマ大統領が原爆で無辜の市民が犠牲となった広島を訪れ、犠牲者を追悼することは、核廃絶という人類の普遍的な課題に向けた重要な一歩のはずである。
ところが、韓国メディアはその歴史的なイベントを自民族の問題に矮小化し、「日本を被害者にするな」「日本は加害者のままでいろ」と一様に騒ぎ立てた。
冒頭に引いた朝鮮日報の社説(5月12日付)は、〈原爆の悲劇は日本の帝国主義が起こした戦争と蛮行の結果〉と断じ、〈韓国は日本の最大の被害者だ…オバマ大統領には、太平洋戦争のシンボル的な場所である広島で日本の戦争責任を指摘し、その悲劇の原因を作ったのが誰なのか、その真の被害者は誰なのかを明らかにしてほしい〉と結んだ。
中央日報の同日付社説も〈オバマ大統領の広島訪問は日本の被害者のイメージばかり浮き彫りにするおそれがあり、本当の被害者である韓国・中国など周辺国に誤ったメッセージを送りかねない〉と主張。
その後も、「(日米の両首脳が共に犠牲者を悼むことで)核のない世界に向けての一歩になる」とした安倍晋三首相の発言を〈被害者としての日本を強調し、オバマ大統領の広島訪問に原爆投下に対する謝罪の意味が込められていることを迂回的に示唆したと解釈される〉と独自の解説を披露している(同16日付)。同紙論説委員はコラムで〈日本は米国の大統領までも広島に呼んで「被害者ショー」をするに至った〉と書いた。
オバマ氏の広島訪問に元米兵捕虜が同行すると報じられると、〈日本の「加害者」の側面を浮き彫りにし、「一方的な謝罪」という評価を払拭するための措置とみられる〉(同23日付)などと都合よく解釈している。
そうした言説が一部であったならまだ理解できるが、「広島訪問反対」では全紙が足並みを揃えた。「核廃絶」という世界的なテーマに背を向けた韓国メディアの主張は、韓国出身として実に恥ずかしい。
※SAPIO2016年7月号