近年、高齢犯罪者が増えている。法務省が昨年発表した「犯罪白書」によれば、2014年の高齢者の検挙人員は4万7252人で、ここ数年横ばいではあるが、1995年の約4倍に増加。そのうちの大半が窃盗で、高齢者の検挙人員の7割以上を占めている。窃盗の内訳は万引きがダントツ。女性に至っては8割が万引きだ。
現役の万引きGメン・伊東ゆう氏がその背景についてため息まじりに話す。
「貧困、孤独や寂しさ、病気などで『どうでもいいや』と自分のことを諦めている高齢者が増えている。パチンコや酒、ギャンブルなどで手持ちの金を使いきってから犯行に及ぶんです。負けた腹いせに何か盗んでやろう、とスーパーに来る老人もいますよ」
伊東氏はフリーライターとして活動しながら、スーパーの依頼に応じて万引き犯の監視に当たる。この道16年のベテランだ。
万引き老人たちには、犯行時に見せる“象徴的な挙動”があると伊東氏はいう。著書『万引き老人』(双葉社)で挙げるのは「バードハンド」と「ニコドリ」そして「拝みパック」だ。
バードハンドとは、狙った商品を棚取りするところを周囲に見られないよう、商品を選ばず一瞬で鷲掴みにする動きを指す。ニコドリとは、万引き犯が同じ商品を2個ずつ盗むことが多いために生まれた言葉。
「『どうせやるなら』という気持ちが大きく、同じ商品を複数、またより豪華なものを盗む傾向があります。今日も高齢者を1人捕まえたんですが、一番高い弁当と生ハム、お酒に豚パテ、タルタルソースまで盗んでいました」(伊東氏)
さらに生鮮食品のトレイパックをニコドリする時、万引き犯たちは、2つのパックの表側を拝み合わせるようにしてひとつにする。これが通称「拝みパック」である。いずれの動作も、手にした商品が何かを周囲に見られないようにして、バッグなどに入れやすくする目的があるようだ。
捕まえた万引き犯がパトカーで連行されるのを見送りながら、伊東氏はつぶやいた。
「反省する人は少ないです。捕まっても『お腹が空いていたから仕方ない』と居直る。貧困は規範意識を超越するんじゃないでしょうか」
万引きGメンの闘いが終わることはなさそうだ。
※週刊ポスト2016年6月10日号