沈静化していたかに思われた「山口組分裂」抗争が、急展開を迎えつつある。5月31日に神戸山口組幹部・池田組の高木忠若頭が岡山市南区のマンションで射殺された事件で、6月5日に六代目山口組系の男が警察に出頭し、逮捕された。このまま“2つの山口組”は泥沼の報復合戦になだれ込むのか? フリーライターの鈴木智彦氏がレポートする。
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高木若頭は岡山の繁華街の有名人だった。たとえば、市内で働くほとんどのタクシー運転手は、撃たれた高木若頭の顔や人となりを知っている。大都市圏の常識ではあり得ない、地方都市独特の距離感だ。
「山口組の分裂前は奥さんと小さなお子さんを連れ、駅前のホテルによく来ていた。ここを利用するのは池田組の人間だけ。トラブルがあってはまずいので、同業者は高木さんやその車、ナンバーを頭に入れている」(タクシー運転手)
駅前の商店主は、警戒した顔つきながら、「この辺の店はけっこう池田組と付き合いがある」と話す。
「まだコインパーキングが普及する以前に、飲み屋のビルにカラーコーンを置いて、自分たちの駐車場に誘導したり、商売が上手」
池田組は神戸山口組でもトップクラスの資金力と評される。金は力であり、暴力の源泉と考えて差し支えない。金のないヤクザは、本気の喧嘩だってできない。
池田組の池田孝志組長は、分裂劇の引き金をひいた主要メンバーの一人で、神戸山口組では舎弟頭という重鎮だ。その後、(六代目山口組直参の)大石組や大分の石井一家といった六代目側の組織から組員を引き抜き、さらに六代目山口組大同会預かりだった木村会(元々は神戸山口組の山健組の有力組織)を神戸山口組に移籍させるなど、全国で活発に動いていた。そのため、こうした引き抜き合戦の余熱が、殺害の遠因ではないかという見方がある。
「六代目傘下を切り崩した池田組の現場責任者が、殺された高木若頭だった。池田組の看板があってこその仕事でも、ヤクザとしての器量がなければ不可能なこと」(神戸山口組側の組員)
ただし、事件当日、暴力団筋では「抗争とは無関係」という観測が根強かった。
「引き抜きからは時間が経ちすぎている。こんな目立つ事件は、明確な怨恨や利害関係がないと起きない」(岡山市内の神戸山口組系幹部)