安倍晋三・首相が消費税10%への引き上げを2019年10月に延期すると発表したが、消費税を巡る論議では、選択肢は「予定通り10%に上げる」か「増税を延期して8%に据え置く」かの2つしかなかった。ここでは、重要な選択肢が一つ抜けている。
「この際、税率5%に戻すのが正論です」と指摘するのは長谷川幸洋・東京新聞論説副主幹だ。
「日本経済はせっかくアベノミクスで上向いていたのに、2014年4月に消費税を8%に引き上げて失速してしまった。いま税率を8%から5%に戻せば、個人も企業も財布の紐を緩め、商店街だって大喜び。瞬く間に日本経済は復活します」
個人消費は確実に上向く。経済アナリストの森永卓郎氏が語る。
「国民はみんな覚えているでしょう。2013年はアベノミクスで株価がリーマン・ショック前の水準に戻り、株高と円安で日本経済は絶好調だった。消費税を5%にすればあの状況に戻るのだから、そこから日本経済を再び成長軌道に乗せるのは容易です。まず減税のインパクトでプラス2%の成長が見込める。
その原動力になるのが消費の回復。2014年4月の増税で家計の負担が平均7万円増えたから、減税すれば逆に家庭の所得が7万円増え、消費に回るのは自然な流れ。消費税が物価に与える影響も考慮して試算すると、個人消費は2%のプラスになると考えられます。景気循環の強いエンジンになる」
株式市場では、5月31日にメディアが「増税先送り」の見通しを報じただけで内需関連を中心に買いが入り、日経平均は1万7234円と166円も上がった。それが税率5%への減税になるとさらに沸き上がる。経済ジャーナリストの磯山友幸氏が語る。
「消費税の減税分3%がすべて消費に回れば、日経平均は確実に2000円ほど押し上げられるでしょう。下落を続けていた百貨店や小売り、家電量販店やアパレルなどが買われるはずです。減税だけでなく、政府が住宅関連の投資を誘発するような政策を打ち出せば株価2万円を超えるのは難しくない」
さらに「年内に日経平均2万5000円台の可能性もある」と見るのは田中秀臣・上武大学ビジネス情報学部教授だ。
「減税で個人にお金が返ってきますから、消費だけでなく投資も力強くなる。日経平均は消費税が8%になる前は2万円を超えていたのだから、税率を5%に戻せばその水準にすぐ届く。減税に加え、追加の金融緩和を合わせて実施すれば2万5000円台も見えてくるでしょう」
※週刊ポスト2016年6月17日号