写真家の山岸伸氏は、これまで2000人以上のアイドル、タレント、女優、歌手を撮影。手がけた写真集はなんと300冊以上に上る。数多くの「初グラビア」も撮影してきたトップカメラマンが、彼女たちの思い出を語る。
山岸氏が印象に残っているモデルの一人が、水野美紀。撮影場所のハワイは大雨に襲われた。
「撮影現場の草原には沼のような水溜まりができたんです。すると彼女、自分からその水溜まりに入って泥遊びを始めたんです。撮ってみるとそれが色気のあるいい写真になりました。でも、体中にヒルがついて後で大変なことになりましたけどね(笑い)」
カメラマンになって以来、自分からモデルを指名したことのなかった山岸氏が、撮りたいと自らオファーしたのが、ほしのあきだった。
「すでにグラビアで人気に火がついていた彼女のスケジュールはいっぱい。そこで、彼女の出演したテレビ番組のプロデューサーのツテで、なんとか撮影にこぎつけました。あきちゃんもそのことは知っていて、撮影の時にマネージャーから『ズルはダメですよ』って怒られてしまった(笑い)。でも、それだけのことをしても後悔しないほど、魅力的な子でした」
山岸氏の写真集には、羽田美智子、千堂あきほ、国分佐智子など、なかなかグラビアには登場しない女優や歌手たちも多い。それらは「こう撮ってほしい」というモデルの意思を尊重する山岸氏だからこその“逆指名”で実現してきた。工藤夕貴も山岸氏を逆指名した一人。
「彼女の主演映画がカンヌ映画祭で上映されることになり、カンヌからマルセイユ、パリと大型バスで周りながら撮影しました。『私のイメージ通りにきれいな写真を撮ってくれた』と聞いて嬉しかったですねえ」
2005年に他界した本田美奈子も山岸氏に撮られた写真を愛していた。
「美奈子ちゃんのお母さんは、『この美奈子の笑顔が一番、好き』と、今でも美奈子ちゃんの部屋に何冊も写真集を置いてくれているそうです。本当に嬉しかったですね。ロケ地はグアムやサイパンなど各地に行きました。
箱根の温泉宿では、浴衣姿で一緒にカラオケをしたのが思い出です。彼女、私にも歌えるでしょって、『銀座の恋の物語』をデュエットしてくれたんです。虫が嫌いで、『虫が出たよ。山岸さん、おぶって』と抱きつかれて……天真爛漫な素顔を撮ることができて。あの笑顔は今も忘れられません」
そして2008年にこの世を去った飯島愛の思い出も深い。山岸氏は彼女の写真集を3冊手がけた。
「明るくて元気で撮影にもとても協力的。誰からも好かれるような子でしたよ」
数多くのモデルを撮影してきた山岸氏。彼の写真にはモデルの素顔やメッセージ、熱い想いが写り込んでいるのである。
構成■西本公広
※週刊ポスト2016年6月17日号