2014年12月より牛丼並盛1杯の価格を300円から380円に値上げしたことがきっかけで客離れを招き、それ以降も業績低迷を続けている牛丼チェーン大手の吉野家。
今年4月には約4年ぶりの復活となる豚丼を300円で投入(通常価格は330円)。わずか2か月で1000万食を売り上げ、客数減にはどうにか歯止めをかけたものの、既存店の売上高を大幅に伸ばす“起爆剤”とまではいかなかった模様だ。
「うまい・やすい・はやい」を掲げてファストフード業界の牽引役だった吉野家が、なぜここまで苦しんでいるのか。もちろん、同業他社との価格競争を繰り返し、280円で食べられた牛丼が最終的に100円上がったことで、「ちょっと高いかも」と感じる消費者もいることは確かだ。
だが、吉野家の河村泰貴社長が〈従来のビジネスモデルを踏襲するだけでは通用しない〉と述べているように、他社より10円でも安い牛丼を素早く提供していれば、黙っていても客が入る時代とは限らない。外食専門誌の記者はこんな分析をする。
「牛丼ブームが最も盛り上がった2000年代前半、吉野家を常連にしていたメイン客は20~40代の働き盛りの男性。彼らが年を取って昼間からガッツリ牛丼を食べようという人が徐々に少なくなっている」
そこで、河村社長が力を入れているのが、枝豆や牛皿などのツマミでビールを飲む「チョイ飲み」客や、「ベジ(野菜)丼」などヘルシーメニューに敏感な女性客といった新たな顧客層の取り込みだ。
まず、今夏までにほぼ全店で導入するというチョイ飲みスタイルは業績回復に有効だと見る向きは多い。フードアナリストの重盛高雄氏がいう。
「“吉呑み”はテーブルチャージやお通し代を取られず明朗会計なうえ、アルコール類2杯に、おつまみ2、3品で1500円前後と手頃。下手な居酒屋チェーンに入って少しだけ飲むより気分的にも楽ですしね。それでいて店側は客の少ない深夜帯の客単価アップも見込めます」
問題は女性客のほうだ。昨年よりヘルシーメニューの“新定番”と位置付けた「麦とろ牛皿御膳」(並盛580円)を夏季限定で販売し、今年も6月2日より販売しているが、女性客の姿が目立つという状況には至っていない。
5月30日にマスコミ向けの商品発表会に現れた河村社長は、「昨年、麦とろ御膳を出したおかげで、これまで吉野家に足を運んでいただけなかった女性のお客様も増えている」と手応えを見せた。
しかし、質疑応答で来店客の男女比を問われると、「平時の男女比は8:2で、麦とろ販売期間中は女性比率が3割に届かない範囲で伸びた」と答え、インパクトを与えるほどの数値ではなかった。