アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が再度の利上げをするとの観測が高まっているなか、今後の為替相場のトレンドはどうなるのか、為替のスペシャリストで酒匂・エフエックス・アドバイザリー代表の酒匂隆雄氏が解説する。
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構造的な変化が為替市場に起きている。それは、貿易収支の動向と、日米金利差の方向性である。
まず、日本の貿易収支は黒字基調が定着しつつある。原因は、原油を始めとする資源価格の下落によって、輸入額が大きく減少しているからだ。そのため、2016年1月の経常収支の黒字額は、単月で1兆7300億円にまで膨らんでいる。実需ベースでは、為替市場でドルは余っているのである。
原油価格が持ち直してきているものの、貿易および経常収支の黒字は高水準が続く見通しだ。2016年度は、貿易収支は6年ぶりの黒字、経常収支は3年連続の黒字幅拡大が見込まれている。当面、需給面での円の下支え要因となろう。
日米金利差の動向についても注意が必要だ。長らく、マーケットのメインシナリオは、米金利は景気回復による継続的な金融引き締めで上昇する一方、国内金利は追加緩和含みで低下するため、日米金利差は拡大傾向をたどり、大きなトレンドは「ドル高・円安」、というものだった。しかし、このシナリオは、以下のように、もはや崩壊していると言えるのではないか。
米国の景気回復が捗々しくなく、米連邦準備制度理事会(FRB)による年内の利上げは1~2回と想定されている。さらに、日本のインフレ率が、3月の消費者物価指数をみてもわかるように、マイナス圏内に落ち込んでいる。
その結果、名目金利を政策金利とした場合、インフレ率を加味した実質金利をみると、足元では日本の方が高くなっているのだ。日米金利差は拡大どころか、米国よりも日本の金利の方が高いという“日米逆転”が起きている。
こうした、重要なファンダメンタルズの変化を考慮すると、すでにマーケットの大きなトレンドは「ドル高・円安」から「ドル安・円高」に転換しているとみられる。
※マネーポスト2016年夏号