核やミサイルによる恫喝外交に周辺国の制裁も続く。窮余の金正恩王朝が命綱とする外貨獲得ビジネスは、アートから肉体労働まで実に幅広い。各国のニッチな需要を見事に掴む労働者たちは、独裁国家の延命のために日夜働かされている。ジャーナリストの李策氏が指摘する。
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4月7日に発覚した、北朝鮮レストラン従業員の集団脱北事件。中国で働いていた北朝鮮の女性ら13人が一斉に逃げ出し、韓国に亡命したこの出来事は、北朝鮮の「外貨稼ぎ」に、ボディブローのようにダメージを与えると見られている。北朝鮮の外貨稼ぎに詳しい脱北者が話す。
「北朝鮮の政府機関や国営企業の多くは、海外で合法・非合法を問わず、様々な形で外貨稼ぎに励んでいます。非合法なビジネスは儲けも大きいが、現地当局に摘発されるリスクも高い。それに比べレストラン経営は安定した商売ができると人気だった。しかし今後は従業員の管理に神経質にならざるを得ず、徐々に下火になるでしょう」
そもそも北朝鮮の機関や企業はなぜ、外貨稼ぎのサイドビジネスにかくも熱心なのか。理由のひとつは、国家の財政難のために、中央省庁を含む各機関が独立採算を余儀なくされているから。そしてもうひとつ、朝鮮労働党から課せられた「上納金」の重いノルマをクリアするためにも、独自の外貨稼ぎが必要なのだ。
方法は実に様々だ。4月半ば、タンザニアの保健当局は、経済の中心地ダルエスサラームにある2つのクリニックに対して抜き打ち検査を行い、即時閉鎖を命令した。理由は、無認可営業。
これらのクリニックは、実質的に北朝鮮から来た医師らが運営する「インチキ病院」だったのだ。その手法は、現地の呪術師らと結託して医療知識に乏しい患者を集め、怪しげな機器を使って適当な診断を行い、高額な薬を売りつけるという悪質なものだった。
※SAPIO2016年7月号