都内在住のAさん(62)は週に1度、自宅近くの病院で持病の高血圧の診察を受ける。その帰りに隣接する薬局で処方箋を提出して薬を受け取るのだが、ある時ふと疑問に思った。
「毎回、数種類の薬を受け取るのですが、医師や薬剤師から副作用の説明をされた記憶がない。副作用の噂はよく聞くので、“本当に大丈夫かな”と不安になっています」
Aさんと同じ疑問を感じる人は少なくないはずだ。通常、医療薬の副作用は、薬が病院や薬局に納品される際についてくる医薬品添付文書の「重大な副作用」の項目に記載されるのだが、処方される患者がそれを見たり、医師や薬剤師から説明される機会は少ない。しかも、副作用は薬の発売後に新たに発覚するケースが珍しくないのだ。
発売後の薬を処方した患者に副作用が出たら、医師はその薬を製造した製薬会社に報告し、製薬会社が厚労省に報告する。その副作用報告を厚労省所管のPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)が精査し、製薬会社へのヒアリングなどを経て、調査結果を厚労省に報告する。
これを受け、国が「添付文書の改訂」を製薬会社に指示するが、その情報は厚労省やPMDAのホームページに記載されるだけで、一般にはほとんど周知されない。発売後の副作用について、医療ガバナンス研究所理事長で医師の上昌広氏が解説する。
「治験(薬の承認を得るための臨床試験)は事故を防ぐ目的で健康状態の悪くない人を対象に行なわれるため、副作用が出にくい。発売後に高齢者など健康に不安のある患者に投与すると副作用は出やすくなります。発売前にこうした副作用を把握するのは困難です」
処方薬の場合、薬局で渡される薬の説明書に、副作用の説明は記載されていない。薬剤師は患者に渡す際に薬の副作用を説明する義務があるが、Aさんのケースのように、それが果たされていないのが現状だ。
「新しい副作用を含め、細かなケースまですべて説明したら、患者が不安になって薬の服用を拒否するかもしれない。それを避けるため、医師や薬局は事細かに副作用を説明しない場合が多いようです」(同前)
医薬品はリスクを上回るベネフィット(利益)がある場合に使用されており、いたずらに副作用の危険を煽ることは患者の利益にならない。だが、国民の多くが薬と付き合っている現実がある以上、せめて国が報告している副作用は知っておきたい。
※週刊ポスト2016年6月24日号