フィリピン新大統領のロドリゴ・ドゥテルテ氏(71)は、米大統領候補、ドナルド・トランプ氏を彷彿とさせる強気な発言で支持を得てきた。中国と係争中である南シナ海問題の解決もセールストークの一つ。価値観を共有する日米比によって南シナ海の安全保障構築を期待する声が高まるが、彼の拠点・ミンダナオ島に足を運ぶと、また違った顔が見えてきた。ジャーナリストの野嶋剛氏がリポートする。
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ドゥテルテ氏は太平洋戦争終結の年の1945年にレイテで生まれ、大学では法律を学んだ。ダバオ市検察庁に赴任し、1986年のピープルパワー革命の直後、副市長代行に着任する。2年後、ダバオ市長に初当選。以後、直接・間接にダバオ市政をおよそ30年も牛耳った。その間、治安を大幅に改善し、経済的好況をもたらした。ダバオでの人気は絶大で、どの市民に聞いても「治安を改善した」「犯罪者が姿を消した」と賛美の声ばかりだった。
その発言や行動には「マニラ湾に犯罪者10万人の死体を浮かべる」など過激なものも多いが、本音というより大衆政治家のリップサービスに近いとみたほうが良さそうだ。
フィリピンの大統領は任期6年で再選はない。政党の力が弱く、個々の指導者の個性が時々の政策にも強く反映される。
現ベニグノ・アキノ政権では規制緩和による経済の活性化と、南シナ海問題における対米協調路線を2本の柱とした。その政権運営には安定感があり、フィリピンがアジアの落第生的存在から「次なる経済発展のフロンティア」として脚光を浴び出したのもアキノ政権の6年間で年平均6%の経済成長を実現していたからだった。
しかし、ドゥテルテ氏は「犯罪対策」を一枚看板にし、経済や外交については、中央での経験が一切ないだけに、まったくの未知数。はっきり言えるのは、アキノ大統領のように米国の期待通りに動くことはなさそうで、南シナ海問題におけるフィリピンの対応に不確実性が高まった形だ。