環境省によると、東日本大震災で亡くなった犬は、確認されているだけでも、青森県で31匹、岩手県で602匹、福島県で約2500匹にものぼる。なかには家族と再会できても、別れを強いられたペットたちも。あれから5年、熊本地震に受け継がれた、東北の想いをひもとく──。
「“飼い主とはぐれた犬や猫を保護しています──”。すぐ目の前で遺体捜索をしている人たちがいるなか、そんな話をすると、白い目を向けられ、非難されました。あの時は、声をあげてペットたちの心配をできるような状況じゃなかったんです」
2011年3月11日に起きた東日本大震災で、飼い主を失った犬や猫の保護活動をしていたNPO法人・SORAアニマルシェルターの二階堂利枝さんは、まるで昨日のことのように当時のことを語ってくれた。二階堂さんは東日本大震災後、住民が避難して取り残された犬や猫を保護し、被災動物シェルターを2011年に開設した。
「震災後の3月末、避難指示が出ていた福島県の南相馬市や浪江町に向かいました。町はまるで神隠しにあったように、人だけがおらず、牛や馬はすでに死んでいました」(二階堂さん)
飼い主を待ち、家の周りをさまよい続ける犬や、鎖で繋がれたまま逃げられず、餓死寸前の犬、フードは腐り、ケージに入れられたまま糞尿まみれになっている毛足の長い猫…。そんな子たちを保護していった。
「誰も悪くないんです」とつぶやく二階堂さん。保護した犬や猫は、車に乗せると嘔吐する子が多かった。吐瀉物の中には、プラスチックや布、ひもが混じり、食べ物のかけらすらなかったという──。
そうして保護したペットは今、犬22匹、猫24匹に。多くが新しい家族に引き取られ、震災時に保護した数の半数以下にまで減った。シェルターに残る子たちも、今は元気に走り回っている。
「昨年、飼い主さんが新しく家を建てられて、お返しできたワンちゃんがいました。高齢のおばあちゃんだったのですが、“チビタのために広いお庭を作ったのよ”って、とてもうれしそうで。新しい家でペットと一緒に過ごすのを楽しみに、震災を乗り越えられたかたも多いんです」(二階堂さん)
熊本地震では、東日本大震災の経験が教訓となり、ペット同行避難が推奨された。東北の動物たちが教えてくれたことは、今、次の時代にしっかりと生かされている。
※女性セブン2016年6月23日号