プロ野球は勝つことが最終目標。しかし少し事情が異なる組織がある。それが二軍だ。一軍選手の調整、故障者のリハビリに、若手の育成。これを成績と両立させる。その難題に今、往年の名選手が挑んでいる。
兵庫・鳴尾浜球場に響く独特のハスキーボイス。現役時代と同じ背番号「31」を付けた“ミスター・タイガース”こと掛布雅之監督だ。
「“育てる”と“勝つ”は共通していると思う。野球は勝ちゲームで覚えることが多く、勝てるチームで育った選手の方が上でいい野球ができる。だから負け続ける二軍はダメ。ただ、勝ちにこだわり過ぎて、選手のいいところを見過ごしてはいけない。このバランスが難しいですね」(掛布監督)
今年の阪神は『超変革』をテーマに、一軍では熾烈なレギュラー争いが行なわれている。和製大砲の横田慎太郎や江越大賀が開幕一軍に名を連ね、育成から支配下登録された原口文仁が一軍の正捕手を務めている。
「金本(知憲)監督とは常に連絡を取り合っており、昇格を決断するとすぐにゲームで使ってくれる。調子のいい状態で上げるから結果もついてくる。これがファーム(二軍)の選手の励みとなり、みんなの目が前を向いているのがわかりますね」(同前)
掛布監督は、「選手への指導は信頼できるコーチに任せ、僕はムードメーカー」と語る。打撃ケージ裏で黙って見守る背中にはファンの視線が注がれているのがわかる。GW、甲子園でのウエスタンリーグ・広島戦は3日間で過去最多の計3万3436人を集めた。
「ファンの目が選手を育てると思う。素晴らしい舞台を作ってくれるファンには感謝しています」(同前)
【かけふ・まさゆき】1955年、千葉県出身。1974年に阪神に入団。主力打者として活躍し、本塁打王3回、打点王1回を獲得。1988年に引退後は解説者として人気を博した。生涯成績は.292、349本塁打
●取材・文/鵜飼克郎 撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年6月24日号