参院選に突入する直前の5月31日、自民党役員会で二階俊博・総務会長が突然、2011年に自民を離党した野中広務・元官房長官と、2005年の郵政民営化に反対し除名された綿貫民輔・元衆院議長の復党を提案した。
野中氏は「全国土地改良事業団体連合会(全土連)」の名誉会長。農地の大規模化や用水路の整備といった農業土木事業の総元締めの団体だが、実態は、自民党長期政権を支えた「最強の集票マシン」でもある。
一方の綿貫氏は「全国治水砂防協会」会長だ。田中角栄・元首相が長く会長を務め、「田中金脈の源泉」「ゼネコンの司令塔」といわれたダム建設推進団体である。ダムは自民党にとって「カネのなる木」だ。
自民党は前回参院選(2013年)の前、「国土強靱化」を誘い文句に日本建設業連合会に対して4億7100万円の献金を要請する文書を送った。自民党の資金管理団体「国民政治協会」の政治資金収支報告書によると、その年、大手ゼネコン43社は自民党本部の献金を倍増(計1億2603万円)させていた。目標には届いていないが、この金額には各派閥が選挙前に開いた盛大な資金集めパーティの収入や建設業界から各議員の政党支部などへの献金分は含まれていない。
安倍政権は建設業界への約束通り、防災や水害対策(治水)を名目に全国で巨大ダム建設を推進した。ざっとあげても、北海道旭川の「サンルダム」(約530億円)、高知の「横瀬川ダム」(約400億円)、安倍首相の地元・山口県の「平瀬ダム」(約740億円)、熊本地震で被害を受けた南阿蘇の「立野ダム」(約917億円)の工事が進められている。ダム建設は山を切り開き、工事用の取り付け道路を建設するところから始まり、大手から中小・零細まで建設業界を潤す。
そのキーマンが綿貫氏だ。「国土強靱化」の旗振り役の二階氏が参院選前に2人を復党させようというのは、ダムと農業土木を押さえれば全国約50万社の建設業界の票とカネを取り込むことができるからに他ならない。
※週刊ポスト2016年6月24日号