安倍晋三首相はロシアのプーチン大統領と北方領土問題について対話を進めているが「4島一括返還にこだわる限り、解決は不可能だ」と指摘するのは、大前研一氏だ。では、ロシアとは今後どんな交渉をしていくべきなのか。
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ロシアは極東ロシアを持て余している。プーチン大統領は開発に力を入れているが、成果はほとんど出ていない。しかも、隣の中国は東北3省だけで人口が1億1000万人なのに対し極東ロシアは約670万人しかいないため、中国の勢力が圧倒的に強くなっている。
すでに中国の会社や商人が続々と入り込み、マーケットで売っている商品の大半が中国製になっているため、このままいくと極東ロシアは中国の経済植民地になってしまうのではないか、という危機感がロシア人の間では募っている。今後は日本などの協力で経済発展を目指すしかないという状況だ。
となれば、日本は早急にロシアと平和条約を結んでお互いにビザを緩和し、ビジネスでも観光でもヒト・企業・モノ・カネの行き来を活発にすべきである。それは日本にとってもロシアにとっても、極めて大きなプラスとなる。
そして、地政学的・歴史的アプローチで考えれば、北方領土問題は「面積等分方式」で交渉することが事態打開につながることもわかる。
これまでプーチン大統領は、中国との係争地だった大ウスリー島の面積を二等分することで国境を画定し、北極海のノルウェーとの係争海域についても二等分で40年に及ぶ境界線論争に終止符を打った。彼は面積等分方式がお気に入りなのだ。
この歴史を踏まえて私は以前から、柔道愛好家として知られるプーチン大統領が日本に対して投げかけた「引き分け」という言葉の意図は、北方領土の面積等分による決着だと分析してきた。面積等分なら、国後島、色丹島、歯舞群島と択捉島の一部が日本に戻ってくる。
安倍首相は5月にプーチン大統領と会談した際、北方領土問題に関して「今までのアプローチとは違う新たな発想で交渉を進めないといけない」と提案したというが、これは面積等分方式を念頭に置いたものではないかと思う。
アメリカは大統領選が終わる11月8日から新大統領が就任する来年1月20日までの70日間、真空状態になる。プーチン大統領の年末訪問はこの間隙を狙ったものであり、今度こそ本音の戦後処理を完結してもらいたい。
※SAPIO2016年7月号